「ターゲットイヤーファンド」も避けておくべき

 長期投資するうえで避けたほうが良い投資信託は、他にもあります。たとえば「ターゲットイヤーファンド」などは、その典型例といえるでしょう。

 一般的に投資をする原則として、年齢が上がるほどリスク性資産の比率を低めにした運用が望ましいと言われています。20代の頃は、たとえば株式の投資比率を70%以上で運用することも許容できますが、60代、70代になって、そのようなハイリスク型のポートフォリオを持っていると、株価の暴落で運用資産が大きく目減りした時、それをカバーするのが極めて困難な状況に陥ってしまいます。

 なぜなら、すでに定年で働いておらず、損失をリカバリーするだけの収入を得るのが難しいからです。したがって、一般的には年齢が上がっていくに従って、徐々にリスク性資産への投資比率を下げていきます。

 ターゲットイヤーファンドは、このリスク性資産への投資配分を、保有者の年齢に応じて自動的に調整してくれるファンドです。
この手の投資信託は、ファンド名の最後に「2020」、「2030」、「2040」というように西暦が付されていたり、購入者の年代を表す20、30といった数字が使われているので、それでターゲットイヤーファンドかどうかが分かります。

 なぜ、ターゲットイヤーファンドが長期投資に不向きなのでしょうか。そもそもターゲットイヤーファンドは、長期の資産形成を前提に設計された投資信託です。
たとえばこの西暦が意味するのは何か、ということですが、これは、リスク性資産の組入比率をほぼ0%に近い水準にまで下げる年を指しています。
たとえば「2040」は、2040年にリスク性資産、つまり株式などの値動きの激しい資産の組入比率が0%になります。仮に今が2013年だとすると、2040年に65歳で定年を迎える人の年齢は38歳です。つまり38歳前後の人がこのファンドを購入すれば、自分が定年を迎えるまでに、徐々にリスク性資産の組入比率を下げながら、運用してくれるのです。
ある意味、おせっかいファンドという気がしないでもないのですが、便利だという印象を持つ人もいるでしょう。

 でも、このしくみには決定的な欠点があります。たとえば2013年に、38歳でターゲットイヤーファンドを購入した人は、2035年には60歳ですから、その時点ではかなりリスク性資産の組入比率は下がっています。
そのとき、2013年春のように世界的に株価が大きく上昇したとしたら、どうなるでしょうか。そう、すでにリスク性資産の組入比率が大幅に引き下げられているので、せっかくの株高も運用成績の向上に反映されないのです。
これは、あまりにも融通が効かなさすぎるとしか言いようがありません。

著書の1章でも書きましたが、この長寿社会においては、定年後から第二の人生が始まると言われるように、長い余生を送ることになります。日本人の平均寿命はこれからの長寿社会では、定年後もある程度、リスクを取って資産を運用していく気構えが必要になってきます。つまり、現役をしりぞいた後もお金を運用し続けることが大切になってきます。
投資信託は、定期預金などと違って、一部解約が可能ですから、当面、必要な資金だけを少しずつ解約し、残りはそのまま運用を継続することができるのです。

 ですから、年齢を軸として、ある一定の年齢に達した時点でどんどんリスク性資産の組入比率が下げられてしまうターゲットイヤーファンドは、長期投資に向かないと考えられるのです。
資産は多ければ多いほどいいし、余ってしまうくらいふえてしまったら、子や孫に残せばいいのです。自分の世代で完結せずに子孫の代までを視野に入れて運用を続ければ、大きな株式のうねりに伴う、大きな果実を手にすることができるのです。

 本書でわたしが条件として挙げた、「コスト安」で「信託期限が無期限のもの」といった条件に、さらに、こういったテーマ型のファンドやターゲットイヤーファンドなどを除いていくと日本国内で売っている投資信託、3376本中、長期で買えるのはたった9本だけでした。もっと投資信託が身近になるためにも、「大きく資産を増やせる投資信託」がもっと多く販売されることを願ってやみません。

中野晴啓(なかの はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本を作る会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。

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