犯罪には「シーズン」がある。年末から年始にかけて増えるのは自動車事故、そして春先から秋口、女性が薄着になるにつれて目に見えて増加するのが盗撮事件だ。刑事事件のみを取り扱う弊所(アトム法律事務所・東京都千代田区)に寄せられる相談でも、4月以降、盗撮の相談件数が増加していることを実感している。相談の大半は実際に盗撮をした方からのものであるが、なかには、本当は盗撮をしていないのに盗撮を疑われて警察に突き出されたり、逮捕されてしまった方も少なくない。誰もが「明日は我が身」となり得る「盗撮の冤罪トラブル」における対処法を、刑事弁護士の立場から解説したい。(弁護士・岡野武志 協力・弁護士ドットコム

靴ひもを結んだら
盗撮犯にされた20代会社員

 先日、都内の企業に勤める20代の男性が相談にみえた。

 飲み会の帰り、帰宅するために乗った電車の車内で、靴ひもを結ぼうとして携帯を床に置いたところ、盗撮を疑われ、近くにいた乗客男性に取り押さえられて、最寄りの警察に連れて行かれたというものだ。

 男性は、連行された警察署で、警察官から責められたり怒られるなどし、怖くなって、つい「すみません」と謝ってしまった。しかし、この「つい」出た一言で、捜査機関は男性を「盗撮犯人」と断定してしまう。

 今回の事件では、男性が早急に法律相談にみえたため、事態が悪化する前に弁護士が検察官と交渉するなどの弁護活動を行い、結果として不起訴処分を獲得し、男性が長期間留置場に勾留されたり、前科がつくという事態は避けられた。

 しかし、本件のように、ちょっとした行為が盗撮行為に間違われて逮捕され、長期間の休業を余儀なくされるなど、社会生活に支障をきたすケースは少なくない。