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森達也 リアル共同幻想論

九条の国、誇り高き痩せ我慢

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第68回】 2013年8月29日
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アメリカでは正当防衛の概念がとても広い

 昨年2月26日、米南部サンフォードの住宅街で事件は起きた。この時点で17歳のトレイボン・マーティンは、自宅近くのコンビニで買い物をして知人宅に戻る途中、彼を不審者とみなした自警団団長でヒスパニック系白人のジョージ・ジマーマン(29歳)に声をかけられてもみ合いになり、ジマーマンが持っていた銃で胸を撃たれて死亡した。

 この事件の裁判で検察側は、「警察官を気取った被告が、(マーティンが黒人であるため)偏見を持って追いかけて射殺した」と指摘したが、ジマーマン被告はこれを否定し、「マーティンから頭を地面に打ちつけられ、危険を感じて撃った」と主張した。つまり正当防衛だ。

 7月13日、サンフォード裁判所の陪審員は、ジマーマンが主張する正当防衛を全面的に認定し、無罪評決を下した。この結果が報道された直後から、全米各地で評決は人種差別であるとして大規模な抗議デモが発生し、混乱を制するためにオバマ大統領は声明で、「われわれは法治国家の国民であり、評決は出た。若い息子を失った両親は冷静な反応を求めている。すべての米国民にはそれを尊重してほしい」と国民に訴えた。

 関連の記事をいくつか読みながら考える。もしも同様の事件が日本で起きていたならば、(そもそも銃を所持している段階でアウトだけど)無罪判決はありえない。マーティンは武器など持っていなかった。このケースでジマーマンの正当防衛は成り立たない。でも現状においてアメリカではこの評決について、人種差別的な観点からの抗議はあるけれど、正当防衛についての議論はほとんどないようだ。

 銃社会アメリカでは、正当防衛の概念がとても広い。現在30州で適用されている正当防衛法では、生命の危険を感じたならば(衝突を回避できる場合だったとしても)、殺傷能力がある武器を使用することが許されている。つまり身の危険を感じたというだけで相手を殺害することが、社会の合意として認められていることになる。もちろん住居侵入もアウト。その場で射殺されても文句は言えない。

 1992年10月17日、ルイジアナ州バトンルージュに留学していた日本人の高校生、服部剛丈(当時16歳)は、寄宿先のホストブラザーとともにハロウィンのパーティに出かけた。しかし訪問する家を間違えてしまい、その家の主であるロドニー・ピアーズ(当時30歳)から銃口を突き付けられて、「Freeze(動くな)」と警告された。
 しかし服部はピアーズに微笑みながら歩み寄り、結局は2.5メートルの距離で発砲され、出血多量で死亡した。そしてこのときもバトンルージュ地方裁判所の陪審員は、全員一致でピアーズに無罪の評決を下している。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


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テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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