サムスン電子を筆頭に、世界市場で韓国勢の伸長が目覚ましい。その一方で、財閥ランキング8位の大グループが解体の危機に瀕している。アシアナ航空、大宇建設を傘下に持つ、錦湖アシアナグループである。オーナー主導の常軌を逸した「膨張経営」が、完全に行き詰まったかたちだ。
「万一の場合、錦湖アシアナグループ向けの営業債権はどうなるのか」──。日本の商社のソウルにある拠点には年明け早々日本の取引先企業から問い合わせが相次ぎ、担当者は対応に追われた。
年末ぎりぎりの昨年12月30日に錦湖アシアナグループの資金繰りが悪化、中核企業である錦湖産業などが日本の私的整理に当たるワークアウトと呼ばれる経営改善手続きに入ると発表したからだ。
錦湖アシアナグループは、運送、レジャー、石油化学、タイヤ、建設、金融業などに幅広く進出した典型的な韓国型財閥だ。2009年4月時点で総資産は37兆6000億ウォンに上り、韓国の財閥ランキング8位の大グループである。傘下企業にはアシアナ航空や錦湖石油化学のほか、三井化学と折半出資してウレタン原料などを生産する錦湖三井化学などがあり、日本企業との取引も多い。当面、営業債権の支払いに問題はなさそうだが、グループ経営の先行きはきわめて不透明だ。
今回の資金繰り悪化のきっかけは06年の大宇建設買収だった。同社は韓国を代表する大手ゼネコンで優良企業だ。大宇グループの破綻を機に株式を保有していた資産管理公社が売却を決めると、錦湖アシアナグループは飛びついた。
買収金額は1株当たり1万8000ウォンで、総額6兆4255億ウォンと巨額。韓国の産業界では「無謀」との声も強かったが、創業者の三男、朴三求・グループ会長は、「財閥ランキングで大韓航空を傘下に持つ韓進グループを追い抜く絶好の機会」と迷いなく買収を指示した。
無謀な買収資金調達 膨張経営のツケ
とはいえ、手元資金には事欠いた。そこで「プット・バック・オプション」という条件付きで買収資金の半分以上に当たる3兆5000億ウォンを投資家(ほとんどが韓国の金融機関)から集め、共同買収したのだ。その条件は、「3年後の09年末時点で投資家から要求があれば、錦湖産業が大宇建設株を1株3万2000ウォンで買い取る」というものだった。
投資家から見れば、買収後に大宇建設の株価が3万2000ウォンを超えれば市場で売却すればよく、株価がそれ以下でも錦湖産業に買い取らせればよいという好条件だ。巨額資金の見返りにリスクを一方的に錦湖産業が負うというスキームで、これが見事に裏目に出た。大宇建設の株価はリーマンショック以降、買収価格にも達しない1万2000~1万3000ウォンで低迷したのだ。
このままオプションが行使されれば、4兆ウォン以上の大宇建設株買い取り資金が必要になる。錦湖アシアナグループは昨年秋以降、大宇建設の売却に動くが、交渉相手に足元を見られ、実現しない。錦湖生命など系列企業の売却による資金確保も進まないまま、オプションの期限を迎えてしまったのだ。