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〈ものづくり〉は、まだ僕らを豊かにできるのか?

未来の市場×日本の技術×現地のサービス=?
――「あるもの」どうしのかけ算で、
アフリカで電力BOPビジネスを起こす東大発の挑戦

瀬戸義章 [作家/ジャーナリスト/tranSMS代表]
【第8回】 2013年9月4日
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電気を届けることは、大きな企業でないとできないのか?
金融サービスを行うには巨大な資本がないとダメなのか?
日本にだけいるとついついハマりがちな「前提条件」のワナ。しかしアフリカでは、携帯電話で送金し、送電網なしに送電するという「新しい現実」が生まれている。この最前線で、日本のテクノロジーやものづくりは役に立たないのだろうか?
これまで、さまざまな前提条件を問い直し、「これから」の〈ものづくり〉の形を模索してきたが、日本のものづくりが世界を変えていく「兆し」はすでに存在する。今回は、そんな可能性を秘めた事例の中から、東大発のテクノロジーと携帯送金サービスを組み合わせてケニアに「電気」をもたらす、というイノベーティブな取り組みに迫る。

銀行が「携帯」に取って代わられる?
――携帯送金サービス「エムペサ」に見る「前提条件」のはずし方

 カンボジアの都市シェムリアップで、1泊8ドル(約800円)という安宿を利用したことがある。当然のように部屋は狭く、セメントの床にパイプベッドがひとつ置かれているだけの粗末なところだった。

 しかし、ルームキーとともに渡されたメモ書きには、ある文字列が添えられていた。それは、無線インターネットにつなぐためのパスワードだった。この宿が例外というわけではなく、2011年1月に訪れたときは、どの宿にも、当たり前のようにネット環境が用意されていた。

 一方、日本では、インターネットが部屋では使えない、あるいはロビーの特定の場所でLANケーブルにつながないとインターネットを使えない旅館やホテルにしばしば出くわす。価格はカンボジアのおよそ10倍であるにもかかわらず、である。

 これは、電話やインターネットなどのインフラを「有線」でつなぐことが当たり前だった日本と、有線をすっ飛ばして「無線」で普及しつつあるカンボジアとの違いだろう。「発展途上国」だからといって、あまねく不便な場所ではない。日本よりも進んだサービスが生まれている場合もある

 たとえば、ケニアの「エムペサ(M-PESA)」がそうだ。現地の学生がソフトウェアを開発したというこのサービスは、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)を特定の電話番号に送るだけで送金ができる。銀行に行くどころか、webサイトにアクセスする必要すらなく、人々は公共料金の支払いや、故郷への仕送りが可能となる。

ケニア北西部トルカナ県。ここで進化を続けているテクノロジーを取材した
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 貧困層向けに金融サービスを提供するために始まったエムペサは、いまやケニアの人口の3割(約1300万人)がユーザーだ。ほかにも類似の電子マネーサービスがひしめいているケニアでは、携帯電話のSIMカードが「財布」代わりとして扱われるという。パスワードを入力しなければ利用できないので、現金を持ち歩くよりもずっと安全というわけだ。電子マネーの普及に関しては、日本よりもはるかに発展しているようだ。

 とはいえ、カンボジアやケニアのテクノロジーやサービスがすべて優れているわけでもない。ただ、日本で生まれるテクノロジーと、他の国で生まれるテクノロジーは「違う」ということだ。それぞれの環境によって特徴づけられ、限界づけられている。日本のインフラを享受していては生まれない発想、ケニアの制約条件下では生まれない技術がある。

 では、もし、その2つを組み合わせたとしたら、どんなイノベーションが生まれるだろうか?

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瀬戸義章(せと・よしあき) [作家/ジャーナリスト/tranSMS代表]

1983年、神奈川県川崎市出身。長崎大学環境科学部卒業。都内の物流会社でリユースビジネスの広報に携わった後、独立。東南アジアのリサイクル事情や、東日本大震災の復興の様子を取材して歩く。2012年、発展途上国向けのプロダクトデザイン&ビジネスコンテストである「See-D Contest2012」にて最優秀賞をチーム「tranSMS」の仲間と共に受賞し、2013年から東ティモールへの導入・実施を始めている。著作に『「ゴミ」を知れば経済がわかる』(PHP研究所)がある。


〈ものづくり〉は、まだ僕らを豊かにできるのか?

日本産業には欠かせない、〈ものづくり〉という言葉。だが、いつからかこの言葉は力を失ってはいないだろうか? 大量に消費されることを前提とした〈ものづくり〉に、使い手である消費者だけではなく、作り手である生産者も、疲弊してはいないだろうか。

そこで本連載では、いま日本を含む世界で密かに新しい〈ものづくり〉の潮流である、問題解決型ものづくりともいうべき「ソーシャル・ファブリケーション」の世界を様々な側面から紹介したい。

「ものづくりを通じて、社会課題を自分ごと、自分たちのこととして解決する」という可能性を知るとき、大量生産・大量消費のなかで分断された作り手と使い手は再びつながり、国境を超えたビジネスが立ち上がる。

「〈ものづくり〉は、まだ僕らを豊かにできるのか?」

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