前回はNTTを猛追するソフトバンクを取り上げ、客観的数値を用いることで、実は借金体質に悩まされているという実態を指摘した。市場が飽和状態に近づきつつある中で、「ケータイ電話戦争」 はより熾烈を極めているが、数多くのマスメディアでは語られない企業の実態を知ることは非常に重要だ。

 2週間ほど前、都心を走る電車に乗ると、筆者の正面の長椅子(7人掛け)に座る乗客全員がケータイ電話の画面に没頭していて、「ここまできたか」と唸(うな)ってしまった。そのとき、ある哲学者の言葉「孤独は山になく、街にある。1人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にあるのである」(*)を思い出した。

 何かの記事で、忘れ物として困るものに、財布よりもケータイ電話を挙げる人のほうが多かった、という内容のものを読んだ。いまや、おカネよりもケータイが大切だというのだから、その需要を奪おうとして情報通信産業に企業が殺到するのも無理からぬことである。

 ということで、前回のソフトバンクに引き続き、今回は「ガリバー企業」の名を恣(ほしいまま)にするNTTグループの1つ、ドコモを取り上げる。同社は1991年8月設立なので、今年で18年目。ドイツ語で「会社」は“die Gesellschaft”という女性名詞であるから、「芳紀まさに18歳」である。

 ところが、そんな彼女にも深い悩みがあるようだ。今回は、彼女を深く悩ませている原因を探るとともに、“じゃじゃ馬娘”ソフトバンクの「隠された戦略」を炙(あぶ)り出してみたい。

(*)三木清『人生論ノート』

売上高4兆円台で足踏みするドコモの苦悩

 ドコモは、99年に「iモード」、2000年に「iショット」と、立て続けに世間を魅了した実績があるにもかかわらず、直近5期間の売上高は4兆円台で足踏み状態。業界2位のKDDIと同3位のソフトバンクに猛追されて、旧華族(旧電電公社)に連なる“深窓の令嬢”としては、いささか色褪(あ)せて見える。

 近年、ドコモへの陰口として囁(ささ)かれるのが「一人負け」だ。