「これではとても商品にはならない……」

 悩むメンバーに、井上さんはいくつかのアドバイスをした。1つは、ココナッツの糖度を上げるために砂糖を加えること。もう1つは、「より中長期の保存が可能な蒸留酒も作ってみたらどうか」という提案だった。

「カクテルのベースになるような酒を作れば、観光客が立ち寄るホテルやバーで使ってもらえるかもしれない」

 井上さんのアドバイスを受け、メンバーはそのための資金集めに動いた。そこで活用したのが、「Campfire」というクラウドファウンディングである。

 多様な出資者の協力を得て、なんとか目標額の60万円に到達した彼らは、その資金を元に、今度はいよいよ対象地のフィリピンで蒸留酒を作る実験へと乗り出した。

悪名高きスラム街のど真ん中で
蒸留酒作りの実験開始

 いざ、現地で蒸留酒を作ってみようという日の前日。メンバーに先んじて現地入りした安東さん(30歳)は、大きなプレッシャーを感じていた。

「井上さんから、『当日までにドラム缶を用意しておけ、じゃないと酒が作れないぞ』と言われていたものですから……」

 現地に着くと、彼は街の人たちにドラム缶の写真を見せながら「これを売っている店はないか」と聞いて回った。

 しかし、モノはドラム缶である。そうそう、売っているはずもない。すると、ある人が「これを作っている工場なら知っている」と教えてくれた。そこで、安東さんは工場を訪ね、直談判して、ドラム缶2本を買い付けた。

「でも、それ、どうやって運んだんですか?」

 ドラム缶は買うのも大変だが、運ぶのも一苦労である。

「それはですね」と言い、安東さんが続けた。

「1つはタクシーの後部座席に載せまして。もう1つはトランクからはみ出しちゃったんですけど、運転手が紐でぐるぐるっと縛って」

 さすがは東南アジア、柔軟である。

 チームはこの時すでに、フィリピンのセブ島にあるロレガという、悪名高きスラム街の一角で蒸留酒を作ることを決めていた。後発のメンバーと共に現地にやってきた井上さんは正直なところ、その現場を見て慌てたという。