学習優位が次世代成長をもたらす「X経営」を紹介する本連載。最終回の今回は、ユニ・チャームを例に、「X(トランス)ナショナル」を基軸とした次世代ボリュームゾーンの開拓法を紹介する。
新興市場を掘り起こす
「スマート・リーン」モデル
失われた20年の勝ち組100社リストで、6位に入ったのがユニ・チャーム。生理用品メーカーとして、アジアを舞台に成長を続けていることで注目されている。
同社がアジアシフトを本格化したのは、 1980年初頭。きっかけは、ある外資系コンサル会社からの「死刑宣告」だった。
国内市場では花王が圧倒的に強く、他方、欧米などの先進国市場には、巨人プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が花王のさらに10倍の規模で待ち構えている。どちらと戦う道を選んだとしても、将来的に伍して戦うことは困難という診断だった。生き残るためには、まだ手付かずでホワイトスペース状態のアジア新興国にいち早く進出するしかない、と提言されたという。
当時は、大前研一氏の「トライアッド・パワー」に代表されるように、欧・米・日本の三極を制するかが、勝者の条件と考えられていた。ゴールドマン・サックスが、「BRICSドリーム」というレポートを出して、新興国市場の台頭を唱えたタイミングより20年も前である。アジアが市場として本格的に立ち上がるのは、まだまだ先だと考えられていた。
しかし、そこにしか生き残りの突破口はないという提案を真摯に受け止めたユニ・チャームは、覚悟を決める。市場の立ち上がりを待つのではなく、自ら市場を開拓することで、次世代成長を目指すことにしたのである。
不退転の決意でアジア市場に進出したユニ・チャームだが、成功までの道のりは決して平坦なものではなかった。
最初に富裕層に的を絞るが、それでは当然ながらボリュームがでない。そこですぐ、その下の中間層にターゲットを切り替えたものの、そこはまだ布オムツが主流で、高い紙オムツには手が届かない。今さらながら、市場がないという現実に直面したのだ。
そこで、まずは現地に社員を派遣し、育児の実態をつぶさに観察することから始めることにした。1日のどんな時間に、どんな場所でオムツを替えるのか。母親の困りごとは何なのか。
その結果少しずつ見えてきたのが、母親が抱える衛生面での不安や心配だった。外でオムツを替えるために赤ちゃんを寝かせる際、床や机が不衛生でベタベタしている。赤ちゃんを立たせてオムツを替えようとしても、布オムツではうまくいかない。そこで、パンツ型の紙オムツを試してもらったところ、これが大好評。