品川女子学院では、教育、子育てに積極的に関わりたいという父親たちが、「お父さんの会」を組織している。
そこでよく話題になるのが、父娘のコミュニケーションの取り方。「娘とうまくコミュニケーションが取れず、寂しい思いをしている」と話す父親が大勢いる一方、そんなことはないという表情をしているお父さんも少なくないらしい。
連載5回目では、そんなお父さんの共通点と、思春期の親子関係について、漆校長に語ってもらった。

父娘関係がうまくいっているお父さんの特徴

漆 紫穂子(うるし・しほこ)1925年創立、中高一貫の品川女子学院の6代目校長。わずか7年間で入学希望者が60倍、偏差値が20上昇。「28プロジェクト」は生徒たちの心にスイッチを入れた。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)東アジア会議にも出席。2012年国際トライアスロン連合(ITU)世界選手権スペイン年齢別部門16位で完走。年齢別部門の日本代表に選抜。著書に『女の子が幸せになる子育て』など。現場教員歴約30年の講演は、お母さんだけでなく、お父さんにも大きな反響を呼んでいる。

 先日、お父さん対象の講演会で、パーソナル・ブランディングの専門家である講師が、「このなかで、娘さんとの関係がうまくいっている人?」という質問をしました。

 手が挙がったお父さんには、共通点がありました。
 それは、女性の目から見ても「おしゃれ」なこと。
 講師の方は、「年頃の女の子は、たいていファッションに興味があります。父親が、似たような価値観をもっていることで、親近感や安心感が生まれるのではないでしょうか」
 と分析していました。

 一緒に歩く機会がまだある時期ですから、お父さんがおしゃれだとうれしいし、服装に無頓着だと恥ずかしいと感じるのでしょう。
 これは、単に外見だけではなく、“子どもが大切にしている価値観と一致するところがある”という点に本質があります。

 ですから、もし「お父さんはファッションセンスがないから、一緒には歩きたくない」と言われたとき、「男は中身だ」ではなく、子どもが何を大事にしているのかという価値観に目を向けてみてはどうでしょうか。

 服は、子どもの成長を現す指標でもあります。
 幼いころは親が決めていた服を、思春期になると、周りの目を気にして決めるようになり、自我が確立すると、自分の好みで決めるようになります。

 娘さんとの関係がうまくいかなかった時期、こんな方法で距離を近づけたお父さんもいました。

 娘さんの友人が自宅に遊びにくる日に合わせて、並ばないと買えないマカロンを購入し、お土産として手渡したのです。
 自分の娘が大事にしている価値観は何だろうか、と考えたところ、「友だち関係」だと気づいたからです。

「そんな小手先の……」と思われた方もきっといらしゃると思います。しかし、これも、本質はその行動の奧にある「子どもの大切にしているものを尊重する」という気持ちにあるのです。

 結果、娘さんの友人たちのなかで、「○○ちゃんのお父さんは、やさしくてセンスがある」という話題になり、それがきっかけで父娘のコミュニケーションが円滑になったそうです。

 もちろん、「働いて服が汚れて帰ってくるお父さんを尊敬している」「毎晩遅いお父さんの仕事を理解したい」、そういう子どももいます。背中で育てる子育てがうまくいっているご家庭もあります。

 しかし、親子だからわかるだろうと相手を思う言葉や行動が足りないこともあるのです。

 子どもを危険から守るため、禁止や命令の言葉を使い、こういうものだと親の価値観を伝えて行く子育てを、変化させていく必要があるのが、人格形成期の思春期のコミュニケーションなのです。

 親にとっては取るに足らないことでも、子どもにとっては大切なことがある。それを見つめ、寄り添ってあげることで気持ちがつながることがあるのでしょう。

 ただし、お父さんと娘の場合、あまり押しが強いと煙たがられることもありますから、適度な距離感も必要です。