過去最高益の水準に回復
強いトヨタが戻ってきた

 11月10日日曜日、静岡県にある富士スピードウェイのサーキットに、1台の「86」が全速力で滑り込んできて、鮮やかにスピンを2回決めた。固唾をのんで見守っていたモータースポーツファンからは惜しみない拍手が送られた。

 ハンドルを握るのは、従業員33万人の頂点に立つ豊田章男・トヨタ自動車社長。小雨がぱらつき、底冷えのするあいにくの天気にもかかわらず、豊田社長は終始、晴れやかな笑顔を絶やさなかった。ファンサービスの気持ちはあっただろう。しかし、笑顔の理由はそれだけではあるまい。

 11月6日、トヨタは2014年3月期中間決算を発表し、過去最高益に迫る好業績を挙げた。

 09年6月の就任以降、大規模リコール問題をはじめ試練の連続だった豊田社長に心休まる時はなかった。しかし、就任5年目にして、「OBが、ようやく自分の経営方針を認めてくれるようになった」と周囲に漏らし、最近では持ち前の強気な発言も目立つ。「経営者として、自信がついてきたのでは」(トヨタOB)という声が聞かれるようになった。

 今期の決算は、トヨタによる見通しでは過去最高益となった08年3月期決算にわずかに及ばないことになっている。だが、おおかたの市場関係者の見方はもっとポジティブだ。

 業界トップアナリストの中西孝樹・ナカニシ自動車産業リサーチ代表は営業利益2兆4500億円、営業利益率9.7%と予想し、過去最高益を更新するとみている。

 強いトヨタが戻ってきたのである。

身の丈に合うか否かで賛否両論
米国工場投資を巡り社内が対立

 過去最高益決算を目前にして、トヨタ社内では、ある議論で賛否が分かれている。