米オバマ政権が揺れている。シリア問題や債務上限問題など国内外には難題が山積している。2011年に、現在のリーダーなき世界「Gゼロ」を予見した気鋭の論客が、変容しつつある米国の現状と未来、日中関係など日本が抱える課題に切り込む(取材・文/津山恵子)

――この数ヵ月、米国は大丈夫なのかと思わせる出来事が続いています。

イアン・ブレマー/米ユーラシア・グループ社長。米国スタンフォード大政治学博士号取得。 1998年、わずか2万5000ドルでユーラシア・グループを創業、政治リスクから政策や経済の予測をする新しいスタイルのコンサルティングを始めた。2011年に同社のトップリスクとして発表した「Gゼロ」(リーダーなき世界)が、世界で顕在化し、注目を集める。
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 過去6ヵ月で、米国が国際的にダメージを被る三つの出来事があった。まず元国家安全保障局(NSA)職員による盗聴システムの暴露、シリアに対する武力行使問題、そして政府機関の閉鎖だ。しかし、こうした出来事が相次いだにもかかわらず、米経済は後退していないと、強く信じている。

 ただ、米国の地位は、外交面で低下している。2期目のオバマ政権の外交チームは、優れたチームとはいえず、シリア問題の際の英国にみられたように、同盟国も米国の方針を熱心に支持していないこともわかった。外交政策で不手際が続いたのは、オバマ大統領自身や連邦議会の与野党、そして米市民が、外交に関心を寄せていないし、海外に対し影響力を持ちたいと思っていないからで、米国の外交面の影響力低下につながった。

――政府機関閉鎖も対外的に影響はあったのでしょうか。

 米経済への影響はなかったが、オバマ大統領自身にはダメージだった。なぜなら、アジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)に参加できなかったからだ。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)合意の推進にも影響を及ぼした。これによって、米国が、多国間協定にコミットする意志があるのか、そして、国際社会で重要な役割を果たしていくつもりがあるのかと、世界が問いただすようになったのは明白だ。

――米経済の成長に影響がなかったという理由は。

 重要なのは、投資家がどの国に投資をしたいと思うか、その国にどんな投資機会があるか、ということ。米国には、最も刺激的で利益率が高い大企業が全てある。米国は近々、世界最大のエネルギー生産者となり、今後も成長する。世界最大の食料生産国でもある。革新的な製品も米国からだ。3Dプリンターは、製造業の発想を一変させた。政府が機能していなくても、米経済はまだ伸びる余地がある。