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ニッポン 食の遺餐探訪

誤った環境意識で危機に瀕する木の「折箱」から知る
「日本は資源の乏しい国」という幻想

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第13回】 2013年12月4日
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 僕が子どもの頃(あるいは今でも変わらないのかもしれないが)「日本は資源の乏しい国です」というように教わった。

 でも、日本は本当に資源の乏しい国なのだろうか?

 そんなことを考えたのは先日、『「持たざる国」の資源論』(佐藤仁著 東京大学出版会)という本を読んだからだ。

 資源という言葉の語源、由来から歴史を紐解き、いつから日本は「持たざる国」になったのか。また、そのキーワードが領土拡張、植民地政策に繋がり、その結果、失っていったものはなにか、ということが書かれていて、気になったところにチェックを入れながら読んでいると、たちまち付箋だらけになってしまった。

 とにかく目の前のことばかりを追いかけてしまう現代にあって、歴史から学べることはまだ多いのだ、と気づかせてくれ、読みながら目から鱗が一枚と言わず、二枚、三枚と落ちる本である。

 このなかで『打ち捨てられた典型的な資源』として挙げられているものに森林資源がある。日本の国土の約7割は森で覆われ、森林率(国土面積当たりの森林の割合)は世界で3位である。

 また日本建築は木造技術の粋を集めたものだし、家具など身の回りにも木を使った物は多い。

 食の分野を見てもしゃもじ、まな板など、木の特性を活かした道具が日本の食を支えてきた。日本はつくづく木の国なのだ。

 ところが、徐々にその様相が変わってきた。家具や建築資材の多くは輸入木材が使われ、しゃもじやまな板などはプラスチック製品に置き換わっている。以前、この連載で紹介した「巻きす」も、同様だ。

「折箱」。折箱につめると料理が美味しそうに見えますよね

 木の製品が姿を消している理由は、森林資源がなくなっているからではない。森林蓄積という数字は過去40年間で2.3倍に増え、積極的に使うべき人工林は約5倍、つまり日本の森林資源量は年々増加し続けていることになる。しかし、利用率は40%に過ぎない。

 『日本の木材自給率は1950年代初頭まで100%近くを誇っていたものの、1970年代には45%に低下、1990年代には28%になり、その後も現在に至るまで20%前後で推移している。日本の森林被覆率の高さは、極端に言えば市場競争に敗れた森林が結果として「残った」とも言える』(『持たざる国の資源論』より)

 食がテーマの当連載のなかで、どうしてこんな話をしているのかというと、今回取材をした『折箱』という器は日本が森林資源を有効に使えなくなっていったことを象徴している、と考えたからだ。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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