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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

100年に1度の危機に、ケインズはよみがえるのか?

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第1回】 2008年12月16日
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 いま世界で起きているのは、マクロ経済学の教科書に書いてあるとおりの事態だ。すなわち、有効需要の激減が、経済活動に大きな影響を与えている。

 したがって、それがいかなる影響を持つかを、マクロ経済学のモデルで分析できる。income-expenditure model(所得・支出モデル)と呼ばれる最も簡単な形のモデル(利子率や価格の変動を考えないマクロ経済モデル)でも、かなりのことがわかる。

 日本の立場から見ると、現在重要な変化は、輸出の落ち込みだ。これを外生的な変化として捉え、消費支出や輸入は所得に比例して変化すると考えて、生産=支出の関係を立てる。これを解けば、「乗数効果」を取り入れた分析ができる(設備投資や住宅投資をどう考えるかも重要だが、とりあえずいくつかの値を想定することでも、かなり意味ある分析ができる)。

 もう少し拡張したモデルを考えるなら、開放経済下のマクロモデルである「マンデル=フレミング・モデル」を用いればよい。これは、経済学を勉強した人でも、あまりはっきりと覚えていないかもしれない。「そう言えば国際経済学の講義で聞いたことがある」程度の認識しか持っていない人が多いかと思う。しかし、現下のさまざまな問題に対して、常識では必ずしも得られない答えを与えてくれる。

 たとえば、「変動相場制の下で財政支出を拡大しても、円高になって貿易黒字が減少するから、経済拡張効果はない」ということなどがわかる。この点は、現下の経済危機に対する対応を考える際に、大変重要なことだ。仮に10兆円規模の経済対策を考えようが、効果は期待できないわけだ。ましてや、2兆円の定額給付金など、何の効果もないことがわかる。

マクロ経済学が
はじめて意味を持った

 これまで、私は、「マクロ経済学はくだらない」と考えていた。マクロ経済理論では、需要の変動が経済活動に影響を与えるというのだが、仮にそうしたことがあったとしても、小さな変動しかありえないだろう。経済活動の基本を決めるのは、供給側の要因であるに違いない。つまり、生産能力、労働者の状況、技術などである。

 高度成長期の日本経済を見ていた人なら、誰でもそう考えたことだろう。1930年代のイギリスを対象としたケインズ経済学は、高度成長時代の日本経済の現実とはおよそかかわりのない理論であり、「現実の世の中のことはさておき、ケインズはこう言っている」というだけの話でしかなかった。つまり、経済学説史以外の何物とも思えなかったのである。学生の興味をひきつけられなかったのも、当然のことだ。こんな理論を教室でまじめに教えていたというのが、信じられないことだ。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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