ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

日本人を追い出す自称“在日”社長の原動力は憎しみか
多国籍職場に意思疎通を求める広告マンの誤解と甘え

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第25回】 2013年12月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 今回は、都内にある社員数10人以下の零細広告プロダクションに勤務していた、31歳の男性を紹介しよう。この男性を仮にA氏とする。A氏は1年ほど前にこの会社を辞め、現在は社員数が100人近い中堅広告代理店で働いている。

 零細広告プロダクションにいるとき、60代前半の社長でもある上司が、自ら「在日」を名乗る男性だったという。31歳のA氏は、その在日外国人の経営者を当時も今も、よくは思っていない。仕事の進め方などをめぐり、意見を潰されたり、時にはいじめを受けたりしたからだと漏らす。それがどこまで事実かはわからないが、A氏の不満が強いことは間違いがない。

 その「悶える気持ち」の真相を聞くと、現在、一部の日本企業に見られる「多様性を認めようと言いながら、実は認めていない」という現状に相通じる課題が見えてくる気がする。A氏とのやりとりは、取材というよりもむしろ議論に近いものになってしまったが、これは筆者にとって、読者諸氏に問いかけたいテーマの1つであったため、あえてやりとりの全文を記事化した。筆者なりの視点で、世間に根づく建前論のタブーにあえて切り込んでみたい。

 なお、登場人物のプライバシー保護の目的から、A氏の話に出て来る社長が“自称”する出身国について、本稿では明かさないことをお断りしておく。


日本国籍でない人が残り
日本人が辞めていく会社の憂鬱

A氏 日本国籍ではないあの社長と話をするだけで、憂鬱になる。暗い気分になる。小さい頃から随分と苦労をされたみたい。「生い立ちが不幸だった」と、本人が皆の前で口にしていたから。

 あの人は、あらゆることを否定する。部下たちの仕事、日本の教育、社会や政治、はるか前の戦争のことまで……。勤務時間中にそんなことを延々と話す。社員は多いときで8人くらいいたけど、そのうち日本国籍でない人が残り、日本国籍の人が次々と辞めていった。私も日本国籍であったためか、社長からいじめ抜かれた。

筆者 日本国籍ではない?

A氏 あの社長が、自らをそのように言っている。白人でもないし、黒人でもない。わかるでしょう?

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

 企業で働くビジネスマンが喘いでいる。職場では競争原理が浸透し、リストラなどの「排除の論理」は一段と強くなる。そのプロセスでは、退職強要やいじめ、パワハラなどが横行する。最近のマスメディアの報道は、これら労働の現場を俯瞰で捉える傾向がある。

 たとえば、「解雇規制の緩和」がその一例と言える。事実関係で言えば、社員数が100以下の中小企業では、戦前から一貫して解雇やその前段階と言える退職強要などが乱発されているにもかかわらず、こうした課題がよく吟味されないまま、「今の日本には解雇規制の緩和が必要ではないか」という論調が一面で出ている。また、社員に低賃金での重労働を強いる「ブラック企業」の問題も、あたかも特定の企業で起きている問題であるかのように、型にはめられた批判がなされる。だが、バブル崩壊以降の不況や経営環境の激変の中で、そうした土壌は世の中のほとんどの企業に根付いていると言ってもいい。

 これまでのようにメディアが俯瞰でとらえる限り、労働現場の実態は見えない。会社は状況いかんでは事実上、社員を殺してしまうことさえある。また、そのことにほぼ全ての社員が頬かむりをし、見て見ぬふりをするのが現実だ。劣悪な労働現場には、社員を苦しめる「狂気」が存在するのだ。この連載では、理不尽な職場で心や肉体を破壊され、踏みにじられた人々の横顔を浮き彫りにし、彼らが再生していくプロセスにも言及する。転機を迎えた日本の職場が抱える問題点や、あるべき姿とは何か。読者諸氏には、一緒に考えてほしい。

「悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史」

⇒バックナンバー一覧