「フォーチュン500」に名を連ねる企業トップが読み漁ったといわれる『イノベーションのジレンマ』(邦訳・翔泳社刊)の著者、クレイトン・M・クリステンセンは、世界を代表する経営学者の一人だ。その人が今、規制された標準的な教育を破壊し、生徒一人ひとりの違いに合わせた学習の個別化を進めるべきだとする教育論を米国で展開し物議を醸している。オバマ新政権の教育改革にも影響を与えるであろうカリスマの持論を聞いた。

クレイトン・M.クリステンセン
クレイトン・クリステンセン ハーバード・ビジネス・スクール教授

―あなたの教育論の中核をなす「生徒中心の学習」について、簡単に説明してもらいたい。

 私が強く影響されたのは、ハワード・ガードナー(認知・教育学の第一人者)による、さまざまな知性に関する著作だ。

 ある人にとって明らかなことが、なぜ別の人にとっては混乱を招くのか。それは私たちの脳が異なる学習方法に合わせた仕組みになっているからだ。知性のタイプは多様であり、学習スタイルも人それぞれだ。だからこそ、生徒一人ひとりに対して教育を受ける方法をカスタマイズする必要があると考えた。

―具体的にはどう実現する?

 コンピュータだ。生徒に知識を伝達するプラットフォームとしてのコンピュータの長所は、それが本質的にカスタマイズ可能という点だ。

 ある人はパターンや物事の理解が得意でも、数学的な認知は苦手かもしれない。ならば、それぞれのやり方で物理学を学べるようなソフトウエアをインストールして解決してあげればよい。

―ただ技術論は別として、教育界という標準化された巨大な実体を変革するのは難しいのでは?

 そうだろうか。一つヒントを話そう。