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森達也 リアル共同幻想論

治安維持法制定時の新聞を見て実感、
この国はまた同じ時代を繰り返す

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第73回】 2014年1月27日
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議員会館前で反対の声をあげる市民たち

 永田町駅で電車を降りる。日時は2013年12月6日午後7時30分。議員会館前の舗道には、すでにおおぜいの市民が集まっていて、「特定秘密保護法絶対反対!」「安倍政権の暴挙を許すな!」「戦争のできる国にしてはいけない!」などと書き込んだ手作りのプラカードを掲げながら、シュプレヒコールを叫んでいる。安倍首相の写真をヒトラーになぞらえたデザインのチラシを手にしている年配の女性がいた。「これはどこで入手したんですか?」と訊ねれば、「自分で作りました」との答えが返ってきた。こうしたユーモアや(サウンドデモなどの)センスは、かつての安保や成田闘争などのデモにおいては、決定的に欠けていた要素だ。

 ……と書いたけれど、1956年生まれの緑川南京に、安保や成田闘争の実体験があるわけではない。あくまでも推測だ。そして同時に、少しやり過ぎなのでは、と思うことも事実だ。デモはどうしても過剰になるけれど、ナチスや大日本帝国への安易ななぞらえは、法案に反対する思想や意志を矮小化してしまうと思うのだ。少なくとも彼は、日本をまた戦争当事国にしたいとは思っていない。多くの人を苦しめたいとも思っていない。保守においても右翼においても、そんな人はまずいない。彼らは彼らなりに平和を求めている(はずだ)。ただその方法論と歴史観が問題なのだ。

 延々と続く人々の列に沿って参議院会館前から衆議院会館前までを歩いたけれど、列はまだ途切れない。この一角だけでも1000人以上はいるだろう。ただし(メディアからはデモ隊などと呼称されているが)行進するわけではない。だって今夜にでも参院で、ほぼ1週間前の衆院と同様に強行採決が行われるかもしれないのだ。つまり秘密保護法案は成立目前だ。ならばこの時点で法案の危険性や矛盾や不備を訴える相手は、もはや一般国民ではない。最終的に法案成立を決める国会議員たちだ。

 だから議員会館前に集結した市民たちは、通りを挟んだ国会議事堂に対して、必死に反対の声をあげる。世代的には圧倒的に年配者が多い。これも大学生が中心だった安保や成田闘争とは大きな違いだ。

 バッグからカメラを取り出した南京は何回かシャッターを押してから、しばらくその場に佇んでいた。とはいえ周囲の人たちと一緒になって声をあげるわけではない。昔から集団行動は苦手だった。周囲と同じタイミングで同じ動きができないのだ。どうしてもずれてしまう。だから子ども時代にはフォークソングが嫌いだった。自意識過剰過ぎるせいもあるのかもしれない。大学生のころに一度だけ母校の野球の試合を見るために神宮に行ったことがあるけれど、最前列に陣取った応援団から当然のように応援の声をあげることを強要されるので、嫌気がさして途中で帰ってしまったことがある。応援しながらでは試合に集中できないし、何よりも音痴なので人前で歌いたくない。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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