営業において、説得力・交渉力は不可欠なもの。これまでは自己流で身体で学ぶというのが主な方法でしたが、説得のメカニズムを「科学」しておけば、誰でも効果的に説得力を身につけられるのです。

 前回までは、「説得力を向上させるための6つのプロセス」の1つ目として、「外部環境を整備する」ことをご紹介してきました。

 今回は、プロセスの2つ目「自分を演出する」についてです。具体的なケースとともにご紹介しましょう。

講演で聴衆を惹き付けられなかった
Eさんのケース

 コンサルティング会社に勤めるEさんは、「不況を乗り切る組織変革」というテーマで講演することになりました。

 実は社外の演壇で講演するのは初めての経験でしたが、そもそも自分の得意分野であり、資料・データも周到に準備しているので、何の不安も感じていませんでした。何回か頭の中でもシミュレーションしてみました。「われながら上出来だ。この講演がきっかけとなって新しい仕事につながるかもしれない」と皮算用さえしていました。そして、楽勝気分で当日に臨みました。

 しかし、終わってみると、Eさんの予想は裏切られました。聴衆の感想は「理屈は分かるけれど、現実的ではない」というものが多く、せっかくのデビュー戦も出鼻をくじかれた格好になりました。この日は上司も同じテーマで講演しました。Eさんはなぜ自分の講演がうまくいかなかったのか、上司にたずねてみました。

 Eさんの上司は、短時間のうちに聴衆との信頼関係を築こうと、さながらライブステージのように話のスピード、声の大きさ、力強さなどを演出し、会場を動き回りながら、聞き手を話に引きずり込ませようとしていました。

 かたやEさんはせいぜいスクリーンと演壇の間を行き来する程度で、会議の席でのプレゼンテーションのように論理で相手を納得させようと努めるあまり、ついつい口だけが饒舌になっていました。