この2週間、世を席巻しているのは、雪と氷の祭典ソチ・オリンピックです。

 オリンピック競技を見ていて感じることがあります。それは、出場した全ての選手やコーチら関係者の数だけドラマがあるんだな、ということです。金メダルの栄冠を掴んだ選手はもちろん、予選で敗退し悔し涙にくれた選手にも、語れば感動を誘うドラマがありそうです。その意味では、五輪を目指し、そこに出られなかったアスリート達も同じでしょう。

 そして、そんな数々のドラマに共通している要素があります。

 それは、人との出会いです。

 誰も気が付かなかった才能の片鱗を見抜いた師とめぐり会ったことで、オリンピックへの道が開けるということも少なくありません。

 実は、スポーツに限らず、ビジネスでも学術でも政治でも、そして音楽でもそれは同じです。人は生れ落ちた瞬間から、数々の出会いを経て、成長していくものです。生まれながらに決まった運命というものなどなく、全ては筋書きのないドラマです。

【アントニン・ドヴォルザーク<br /> 交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」】<br />“新世界・米国“由来する新たな出会いを盛り込む

 と、いうことで、今週の音盤は、アントニン・ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」です(写真はノイマン指揮チェコ・フィル盤)。

「新世界より」はドヴォルザークの最高傑作にして、クラシック音楽の全ての交響曲の中でも燦然と輝く名曲中の名曲です。

肉屋の長男

 そんな素晴らしい作品を生んだアントニン・ドヴォルザークですが、彼が1841年9月8日にボヘミアの都プラハから北方30kmの片田舎にあるネラホゼヴェス村の宿屋兼肉屋の長男として生まれた時、誰もこの赤ん坊が将来、大作曲家になるとは思いつきもしませんでした。

 1841年と言えば、フランス革命とナポレオン戦争を経て、ウィーン会議の復古的な雰囲気が欧州を覆っている時代です。自由の息吹が芽生えつつありましたが、ボヘミアの片田舎は、大らかな気風な中にも保守的な社会でした。