一攫千金、濡れ手に粟、そんな言葉が現実のものだった中国の2000年代、中でも「不動産」と「石炭」は巨万の富を象徴する業界でもあった。中国語で「煤老板」(meilaoban、石炭社長の意)といえば、泣く子も黙る億万長者、誰もが一目を置く存在だった。

 筆者は2年前の春、山西省出身の“煤老板”と東京で会った。40代のこの壮年の男性は、訪日の目的を「新たなビジネスを探すため」と語っていた。彼の行動は、当時すでに中国の石炭業界が頭打ちであることを意味していたのである。

 その石炭業界の低迷が、今回のシャドーバンクのデフォルト危機につながる。期日までに償還されなかった中誠信託、吉林信託が発行した理財商品をめぐり、衝撃のニュースが日本にも伝わったが、まさに元凶はこの石炭だった。

 一世を風靡した中国の石炭業界と没落、そしてここに向けて資金調達した信託業界を中心としたシャドーバンク、さらに「騙された」と泣きを見る投資家たち……。危機的状況に陥った中国経済の舞台裏を覗いてみたい。

今後のデフォルト危機に?
中国石炭業界の栄枯盛衰

 2007年ごろ、私たちは日々上昇する資源価格に目を白黒させたものだった。原油や鉄鉱石、石炭、レアメタルなどの資源価格の高騰の背景には、中国をはじめとした新興国の急激な経済成長があった。

 中国では2006年ごろから、石炭の価格が上昇を始めた。ちょうど第11次五か年計画(06~10年)の期間に相当するこの間、金融危機の影響を受け低迷した景気を刺激するために、中国は2008年に4兆元の財政出動を行った。

 中国で石炭の産地と言えば山西省、陜西省、内モンゴル自治区だが、こうした資金はここにも流れ込み、石炭産業は巨大産業に成長した。一説によれば、この業界は2006年からの7年間で2兆元(2008年末のレート・1元=13円として約26兆円)を超える投資を行い、生産規模を急拡大させたと言われている。