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石井苗子 心がラクになるストレスコントロール

競争社会に拡がる、
「相手を蹴散らしてでも」という価値観

――時津風部屋力士死亡事件で思うこと

石井苗子 [東京大学客員研究員・女優・精神カウンセラー]
【第9回】

17歳がリンチで
殺されるということ

 17歳の子供が、相撲部屋から脱出した時点から、7ヵ月後に元親方と兄弟子たちが逮捕されるまでの経緯を、2月8日付の読売新聞の記事で読みました。どうして17歳の彼はあえて道行く人にすがって、「お金貸してください」と頼んでいたのでしょう。その姿を想像して、私は胸が詰まる思いがしました。わらをも掴む思いの行動です。

 もうひとつ、「このままだと、子供がひとり死んでしまうかもしれない」のSOSを、相撲部屋の関係者はどこかに送ることができなかったのでしょうか。このふたつのいずれも、お金と人間関係の歪みが背景にあって、この少年の命を助けることが出来なかったのだと思います。

 17歳は、なぜ交番に駆け込めなかったのでしょう。交番は、命を守るためなら、お金を一時的に貸すことは認められているはずです。しかしこの少年は、交番がお金を貸すよりも、すぐに相撲部屋に引渡すだろうと知っていたのでしょう。連れ戻されたら殺されるかもしれない。子供にとってそう思うことが、どれほどの恐怖だったか。だから道行く人にすがっていたのだと思います。

 結局、部屋に連れ戻された時点で、私はこの少年が、生きようとする力を放棄していたのはないだろうかと思うのです。それを想像しただけでも戦慄が走ります。

 世間から隔離された世界で育ってきた17歳は、どこに行って自分の苦痛を訴えたら聞いてもらえるのかを知らなかったのでしょう。唯一の頼みが、道を歩いている見ず知らずの他人でした。ひとりでも「どうかしたの?」と声をかけ、話を聞こうとしたでしょうか。おそらく、気味悪く感じて、無視したのではないかと思います。

 私がもし、この少年に突然「おばさん、お金貸してください」と言われたら、どうしていただろうかと思いました。大人として「お腹がすいているの? どうしてそんなことを聞くの」と質問する勇気があっただろうかと思います。追い詰められていた少年は、果たして他者とのコミュニケーション能力をもっていたでしょうか。

 兄弟子たちは、逃げた本人を捕まえて、話を聞くでも、逃がしてやるでもなく、部屋に連れ戻して来た。そうすることしか出来なかったのでしょう。「僕は、格闘家になるのは無理だと思う。少なくとも、今は無理だから、もう一度考え直したい」なんてことを相談されれば、それこそ「うっせい!じゃ、始めっからこんなとこ来んじゃねーよ」で話が終わってしまったのでしょうか。あるいは、逃がしたら自分たちが肉体的制裁にあうと思っていたのでしょうか。

 いずれにしても人間関係から得ることができたはずのサポートは、この事件のどこにもありませんでした。通報する人がいなかったのも、どこへ連絡したら具体的に助けることになるのか、思いつかなかったのか。

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石井苗子 [東京大学客員研究員・女優・精神カウンセラー]

上智大学卒業後、同時通訳、「CBSドキュメント」初代女性キャスター等を経て、女優として映画、テレビドラマに多数出演。97年聖路加看護大学に学士入学、看護師・保健師の資格取得後、東京大学大学院に進学。2007年、医学系研究科健康科学 生物統計学疫学・予防保健学分野で博士課程を修了後、東京大学医学部客員研究員に就任。


石井苗子 心がラクになるストレスコントロール

都内の心療内科でカウンセラー修業を積んだ石井苗子が、そこで見聞きしたことや自身の経験を踏まえながらストレスコントロールの方法を易しく説く。

「石井苗子 心がラクになるストレスコントロール」

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