いよいよ今年4月から、消費税率が8%に引き上げられる。さらに1年半後には、10%までの引き上げも待っている。激動の時代を生きるビジネスマンは、消費税に関する知識を今から身に着けておかないといけない。消費税に関する用語を、ジャンル別にわかり易く解説した。今回お届けするのは、販促コンサルタントの竹内謙礼氏が監修する「価格表記に関連する用語編」だ。

【価格転嫁】

 価格に消費税を転嫁すること。たとえば、現在1980円(税込)で販売されている商品の場合、3%の消費税を転嫁させ消費税率が8%になると、2036円となる。また、消費税を転嫁しないことを「価格転嫁拒否」と言い、消費税増税分を売り手側、もしくは仕入れ側が負担することを意味する(例:現在1980円で販売されている商品を増税後も1980円で販売する)。

【転嫁対策調査官(転嫁Gメン)】

 消費税増税により中小企業にとって負担増となった分を、取引先の大手企業が負担拒否(転嫁拒否)しないよう監視、指導する調査官。通称“転嫁Gメン”とも言われている。関連各省庁及び各経済産業局などに「消費税転嫁対策室」が設置されており、各室合わせて過去に例のない500名近くもの転嫁対策調査官が配置されている。なお、転嫁対策調査官は、書面調査等も活用しながら、消費税転嫁に悩む全国の事業者の声を拾い上げ、厳正に取締りを行っている。

【参考】消費増税「Gメン」始動 小売業の転嫁拒否を監視(日本経済新聞社)

【税込価格(総額表示)】

 商品の「本体価格」と「消費税」の両方を含めた“総支払額”を表示した価格表記のこと(例:増税前に1980円で販売していた商品を2036円という表記で販売する)。「内税」「コミコミ価格」等の言葉で置き換えられることもある。増税前の馴染みのある価格表記ということもあり、消費者の支持も高い。

 反面、増税期には消費税分の“値上げ感”を印象づけてしまうところがあり、一部売り手側では敬遠する動きもある。値上げ感を与えないために、消費税分を価格転嫁せずに“価格据え置き”で「税込価格」で販売する事業者も多い。

 また、2015年10月1日の2%の消費税アップ時に、再び全面的に価格表記への対応を強いられることも、売り手側がこの価格表記を敬遠する理由のひとつとなっている。なお、価格表記に関しては、消費税転嫁措置法の経過措置にともない、売り手側は「税込価格」「税別価格」を自由に選択することができる。ただし、2017年4月1日以降は、価格表記を「税込価格」に統一することが定められており、将来的にはすべての商品が「税込価格」の表記を採用することが義務付けられている。

【参考】消費税における「総額表示方式」の概要(財務省)

【価格据え置き】

 増税前に販売している価格に対して、消費税を転嫁せずに販売すること(例:増税前1980円の商品を増税後も1980円で販売する)。分類としては「税込価格」に含まれる。消費税増税分3%、および次回増税の2%を売り手側が負担する形になるが、価格の優位性が発生することから、価格据え置きを選択する事業者は多い。しかし、利益を圧迫させるデメリットもあり、利益率の低い事業者には適していない価格表記といってもいいだろう。

【税抜価格(本体価格表示)】

 商品の「本体価格」のみを表示した価格表記のこと。「内税」「税別価格」等の言葉で置き換えられることもある。馴染みの薄い価格表記ということや、支払時の総額が分からないという事情もあり、消費者の支持は低い。

 反面、商品の“値ごろ感”が伝わりやすく、スーパーマーケットや飲食店等の事業者の間では、この価格表記を支持する売り手は多い。また、2015年10月1日の2回目の増税時に価格表記を切り替える必要がないことも、売り手側から支持されている理由の1つと言える。

 ただし、価格表記の自由選択の経過措置期間が切れる2017年3月31日には価格表記を総額表示に切り替えなくてはいけない。なお、増税前の価格表記には消費税が含まれているため、「税抜価格」で販売する場合は、いったん現行の価格から5%の消費税を差し引いて、本体価格を表示しなければならない(例:増税前に1980円で表記されていた商品は、消費税5%を差し引いて1886円を本体価格とする)。

【参考】総額表示義務の特例措置に関する事例集(税抜価格のみを表示する場合などの具体的事例 国税庁)/PDF資料

【本体価格と総支払額の両方表示(トリプル表示)】

「本体価格」「総額」の両方を併記した価格表記のこと。これに「消費税」の表記を加えて3点セットで“トリプル表記”とも言う。すべての価格の情報が伝わることから、もっとも消費者の支持が高い表記である。主にセブン&アイやイオングループが「本体価格」と「総額」を併記する価格表記を採用する予定となっており、これに追従して、両価格の併記を採用する売り手が増加傾向にある。しかし、価格表記の変更の手間、値札が大きくなる等の問題もあり、すべての業種に適する価格表記手法とは言えない。

【参考】スーパー業界、「税抜」で足並みそろう(日本経済新聞)

【参考】消費税対策研究プロジェクト緊急調査「生活者に聞く価格表示」(博報堂)/PDF資料

【消費税還元セール】

商談・会議・学習にバッチリ役立つ!<br />消費税増税用語集(3)<br />【価格表記に関連する用語編】

 増税後、消費税を販売価格に転嫁せずに、消費者に販売する販促手法のこと。過去の消費税増税後では、高い販促効果を発揮したキャッチコピーだったが、2014年4月1日以降に導入される消費税増税の際は、消費税を転嫁しない販促手法は全面的に禁じられている。消費者への誤解を招くだけではなく、納入業者への買いたたきにもつながることもあり、消費税を還元しないセール方法を行ってはいけない。

 ただし、消費税を還元しない販促手法が禁じられているだけであって、消費税を還元せずに販売する手法は認められている。また、「消費税」「増税」等の税を関連付けさせる言葉を使わないキャッチコピーは認められているので、売り手側の工夫次第では、販促の自由度は高いと言える。

【参考】消費税率引上げ対策早わかりハンドブック 22P(東京商工会議所)/PDF資料

【プライスカード(値札)】

 商品の価格を消費者に提示するためのもの。消費税増税の際、売り手側は消費者に対して分かりやすい価格表記をする義務がある。

【参考】消費税率引上げ対策早わかりハンドブック 24P(東京商工会議所)/PDF資料

【誤認防止措置】

 増税後に、価格表記や店頭の注意事項の不備によって、消費者に不利益を生じさせない措置のこと。総支払額を分かりやすく大きく掲載したり、「当店では消費税をレジにて8%頂いております」という注意書きを、店内に複数ヵ所掲載したり、来店する消費者に対して、売り手側が分かりやすい料金支払い体系を構築しなくてはいけない。

 なお、このような措置を売り手側が怠った場合、“有利誤認”とみなされて、意図的に消費者を欺いたと判断される場合がある。厳しい処罰を受ける可能性もあるので注意したほうがよい。

【スイッチングコスト】

 現在使っている製品やサービスを、別の代替財に乗り換える際にかかる総コストのこと。消費税増税時は、「税込表示」「税別表示」を選択することによって、どのくらいのスイッチングコストがかかるか検証する必要がある。

 たとえば、衣料品チェーンのしまむらでは、「税込表示」と「税別表示」のスイッチングコストを算出した結果、全店舗、全商品の値札を切り替えるよりも、消費税3%を転嫁せず「価格据え置き」で販売したほうが、スイッチングコストが抑えられると判断。結果、「税込表示」を選択した経緯がある。企業規模によってスイッチングコストが変動するので、そのコスト計算によって「税込表記」「税別表記」を決定しなくてはいけない。各企業の価格表記の動向はチェックしておいたほうがいいだろう。

【参考】各企業の消費税増税の価格表記対応(経営コンサルタント・竹内謙礼ブログ)

【実質値上げ】

 消費税増税に伴い、販売価格を全体的に引き上げること(例:増税前に1980円で販売していた商品は、3%の増税で2036円だが、増税額以上の2100円で販売してしまうこと)。原材料や人件費の高騰により、増税額以上の値上げをする事業者は多い。

 ただし、増税のタイミングでの値上げは消費者から“便乗値上げ”と誤解を受けやすく、慎重な対応が必要となる。値上げの理由、およびサービスや商品性能の向上により、価格が上がったことを消費者に理解してもらう企業努力を行わなくてはいけない。

【便乗値上げ】

商談・会議・学習にバッチリ役立つ!<br />消費税増税用語集(3)<br />【価格表記に関連する用語編】

 巧みに機会をとらえて、価格を値上げすること。消費税増税時には、増税分以上の料金を“合理的な理由なしに”上乗せして販売することを意味する。このような悪質な値上げを行った場合、各担当省庁より指導等を受ける場合がある。

 ただし、値上げする売り手側に“合理的な理由”があった場合は、「便乗値上げ」とは言わない。例えば、原材料の高騰や人件費の高騰などを理由に値上げすることは、「便乗」ではなく、市場の自由競争の下で行われた「値上げ」になり、便乗値上げとはみなされない。最終的には、税負担の変化による上昇幅や商品の特性、需給の動向やコストの変動などを総合的に検証して、便乗値上げか否かを判断している。

【参考】消費税の円滑かつ適正な転嫁のために(内閣官房、内閣府、公正取引委員会、消費者庁、財務省)/PDF資料 便乗値上げ・P13

【事業全体での価格転嫁】

 事業全体で消費税を転嫁する戦略(例:商品Aは消費税5%据え置き、商品Bは減収分を確保するため3%以上の値上げをする)。ニーズにあった新商品を開発したり、有償サービスを開始したりして、既存商品や新サービスを織り交ぜながら、事業全体で売上・利益を確保していくことが主な作業となる。

【参考】消費税率引上げ対策早わかりハンドブック 3P(東京商工会議所)/PDF資料

【印刷物】

 消費税増税の際は、カタログやパンフレットの価格表記を変更するため、新たな印刷物を制作する事業者は多い。紙媒体の販促物の在庫数を確認するほか、増税直前は印刷所が込み合うので、早目の対応を心掛けたほうがよいだろう。

【ショッピングセンター】

 複数の小売店舗やフード・サービス業、美容院・旅行代理店などの事業者が入居する商業施設。消費税増税に伴い、価格表記を店舗側の判断にゆだねているショッピングセンターは多い。また、ポイントサービスの付与も各店舗の判断にゆだねているため、増税後は消費者の混乱も予想される。なお、ネット上の仮想ショッピングモール(楽天、Amazonなど)は、ほとんど消費税を「税込価格」で統一している。

【参考】

・『消費税引き上げ対策早わかりハンドブック』
 東京商工会議所が制作した消費税対策の小冊子。イラスト解説で分かりやすく要点をまとめている。

 ※PDFダウンロード

・『消費税の円滑かつ適正な転嫁のために』
 内閣官房、内閣府、公正取引委員会、消費者庁、財務省が共同で制作した消費税対策の小冊子。「消費税引き上げ対策早わかりハンドブック」に比べて、禁止事項が明確に解説されている。

 ※PDFダウンロード

『消費税アップを逆手にとる販促テクニック』

 今回の用語集を制作した、経営コンサルタント竹内謙礼が執筆した消費税増税対策の本。消費税による駆け込み消費や買い控えの対策を分かりやすく解説している。