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元素戦略
【第9回】 2014年3月17日
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中山智弘

日本の科学界を支える「SPring-8」
【特別対談】 京都大学・北川宏教授(5)

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レアメタルと呼ばれ、日本を支える高度技術の要となる希少元素。その機能を、鉄やアルミなどのありふれた元素で置き換え、日本を資源大国へと変貌させる国家的なプロジェクト「元素戦略」が注目を集めている。
その立役者である中山智弘氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター・フェロー/エキスパート)と、「元素戦略」の代表的な研究成果の1つであり、現代の錬金術とも呼ばれる「元素間融合」技術を開発した京都大学・北川宏教授をお迎えし、「元素戦略」の現在を具体的に語ってもらった。(構成:畑中隆)

科学技術予算削減の間違い

──「元素戦略」はパッションを持った日本の研究者によって成果を生み出されてきましたが、その研究を支えるものにSPring-8という大型施設が知られています。これはいったいどのようなものでしょうか?

北川宏(きたがわ・ひろし)
京都大学教授・博士(理学)。昭和36年12月5日生まれ。1991年3月京都大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。1991年4月岡崎国立共同研究機構(現自然科学研究機構)分子科学研究所に着任、助手として分子素子研究に従事。1992年3月「ペロブスカイト型混合原子価錯体の研究」にて博士(理学)京都大学、1993年英国王立研究所客員研究員、1994年4月北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科助手、2000年1月筑波大学化学系助教授、2003年5月九州大学大学院理学研究院教授。2005年から2012年まで科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2005年から2008年まで九州大学総長特別補佐(構造改革担当)、2009年4月京都大学大学院理学研究科教授に就任、2013年第5回化学サミット議長(テーマは元素有効利用)。現在、文部科学省研究振興局科学官、南京大学併任教授。4月から京都大学理事補(研究担当)。日本化学会学術賞、井上学術賞、マルコ・ポーロイタリア科学賞などを受賞。原著論文200報余。

北川 SPring-8について話をする前に、1つ申し上げておきたいのは、数年前に研究開発を行なう法人を徹底的に叩いたのはまったくの間違いだった、という点です。これはどうしても知っておいてもらいたいことです。
 今回のわれわれのいくつかの発見についても、SPring-8なしには絶対達成できてないことなんです。たとえば、ジャングルジム構造のMOFですが、これをつくっても、その構造が本当にできているかどうかを証明するのは大変です。表面に薄く作製したMOFの幅は空間と触媒のすべての部分を合わせても数ナノメートルという薄さなので、輝度の高い強力なX線で観察しないと解析できません。たまたま、日本には兵庫県にSPring-8という素晴らしい大型放射光施設があって、しかもそこに坂田修身さんという非常に優秀な研究者がいた。この坂田さんがすごい技術を持っているんですよ。装置というのは高度になればなるほど、それを活用しきるには装置だけでなく、高度な技術をもった人がいないと使いこなせない。SPring-8はその典型です。「高度な装置+高い能力を持った技術者+質の良い材料」の3つが揃わないといけない。われわれの材料があっても、三者が揃わないと存在自体を証明できないんです。

中山 表面MOFの競争は、当時もいまも世界的にもすごい競争をしていましたからね。その中で北川さんの論文が最初に「ネイチャー・マテリアルズ」に出た。

北川 そうです。それを実現できたのはSPring-8と坂田さんがいたからこその話で、きちんとMOFの構造を証明できたからなんです。
 SPring-8の運営費は年間100億円弱です。高いと思うでしょうけど、SPring-8がカバーしている範囲は触媒や磁石のような先端技術だけでなく、それこそ和歌山ヒ素カレー事件の物証の分析などにまで広がっています。微量元素の分析から生態系、医療分野まで、ほとんど全分野の科学技術に渡って研究の支援をしていて、SPring-8という大型施設を日本全体に供用し、産学問わず多くの研究者が利用し、SPring-8がないと絶対に解明できないことを行なっているわけです。それなのに、当時の事業仕分けで政治家は「一番でないといけないのですか? 二番ではいけないのですか?」といって、運営費を半分の50億円にしようとした。半分にすると、もう運転できません。

中山 日本には資源がない。じゃぁ、何で食っていくかということですよね。二番でいいのかと。

北川 そうです、天然資源の無い国ですから、科学技術力こそが唯一の資源、ですから一番であり続けないと食っていけない。資源がたくさんあるとか、人口が少ない国であればまだ別ですが、日本という国は軽自動車でアクセルを目いっぱい踏み続けている状態ですよね。少しでもアクセルをゆるめると、すぐにどこかの国に次々と抜かれていく。トヨタがクシャミをしたら失業者がたくさん出てしまいます。だから、しんどい話ですが、常に1位であり続けなければいけません。そのためには高等教育機関である大学への運営費交付金などの増額も必要だし、我が国には京コンピュータや大強度陽子加速器施設(J-PARC)などの世界トップの施設があるのだから、しっかり運用していかないともったいないと思います。

 ※参考記事:日本の「元素戦略」は、なぜ世界のトップを走れるのか?

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中山智弘(なかやま・ともひろ)
1997年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。民間企業の研究員から2002年に科学技術振興事業団へ。独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付、内閣官房国家戦略室政策参与を経て、現在、JST科学技術イノベーション企画推進室参事役、JST・CRDSフェロー/エキスパート、文部科学省元素戦略プロジェクト・プログラムオフィサー。各種の政府委員等も務める。
 


元素戦略

「レアメタル」と呼ばれ、日本を支える高度技術の要となる希少元素。その機能を、鉄やアルミなどのありふれた元素で置き換え、日本を資源大国へと変貌させ る「元素戦略」が、産官学が連携したオールジャパン体制で進められている。科学と産業に革命的なインパクトを与える「元素戦略」の全体像を、その立役者と も言われる中山智弘氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター・フェロー/エキスパート)に解説してもらう。

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