2014年春闘の自動車メーカーによる回答が出そろった。ベースアップは各社で対応が割れた。その背景には何があったのか。自動車産業主導の“官製賃上げドミノ”は持続するのか。

 春闘の回答日から5日後、鈴木修・スズキ会長兼社長の腹の虫は、まだ治まっていないようだった。

「自動車業界でベア(ベースアップ。従業員への配分が一律ではない賃金改善を含む)方針の足並みがそろっていなかった? そんなことはない。みんな一緒だ」と声を荒らげた。

 鈴木会長がいら立つのも、無理からぬ話だ。当初、スズキ経営陣は、組合の要求には一時金で応じ、ベアを見送る方針を固めていた。

 だが、回答日の直前になって事態が一変する。甘利明・経済再生担当相が「業績が改善したのに賃上げをしない“非協力企業”にはしかるべき対応をする」と発言。名指しこそされなかったが、安倍政権が賃上げの先導役として期待する自動車産業に向けられたものであることは間違いなかった。

 現役大臣のプレッシャーに屈したスズキは、ギリギリのタイミングで、若手に限り月800円のベアに応じることにした。そんな屈辱をみじんも感じさせることなく、「(大手並みの金額とならなかった)おわび」(鈴木会長)として、社長・副社長の報酬カットを添えたのは鈴木会長の意地だろう。

 置かれている環境は、軽自動車の双璧を成すダイハツ工業も同じで、スズキと並び月800円のベアで決着した。軽自動車メーカー2社は、組合要求額とベアが2700円も開く結果となった。

 翻って、トヨタ自動車やホンダをはじめ自動車メーカー5社は月2000円以上のベアで決着、日産自動車に至っては満額回答の大盤振る舞いとなった。軽自動車メーカーと大手とで、明暗がくっきりと分かれた(図参照)。

 リーマンショック以降6年ぶりの賃上げラッシュの火付け役となった自動車業界。そのシナリオは安倍政権によって用意周到に進められていた。