「立つ鳥跡を濁さず症候群」の面倒臭さ

 最近驚いたのは、会社を辞めて、新たな道に踏み出すと決めた人に多い「立つ鳥跡を濁さず症候群」だ。

 もちろん、それができればこしたことはない。しかし、これが未練というか、必要以上に時間を掛けて、驚くほど丁寧に行う人が多い。

 決して急がず、それこそ完璧に仕掛かりの仕事をやり終え、引き継ぎが終わるまで時間を掛ける。普通、新たな挑戦には時間がないものだが、そういう気概はない。中年になると、どんどんとそうなる。ゆっくりと時間を掛けている間に、下手をするとタイミングを逸する。

 しかも、「いついつまでは公表しないでほしい」とか、しまいには「上司にあってほしい」と相手に頼む始末。これは、以前なら想像もしなかった現象だ。

「あなたがいなくても、それほど組織は困らない」「周りの人間は、そこまであなたのことを気にしていない」ということがわからない。

 そこまで傷つきたくないのだ。臆病なのだろうが、組織に嫌われたくない、嫌な奴だと思われたくないということなのだろう。

 これが今の50代の傾向であるとしたら、本当におかしなことだと思う。しかし、そう思わざるを得ないことが多すぎる。

 私はとっとと辞めてしまった口だ。だからといって、別にその組織が嫌いだったわけではない。新しい仕事に早く従事したかった、する必要があったからだ。もちろん、新しい組織の人間と、今の組織の人間を引き合わせるなどということは考えもしなかった。それでも、野村総研とはお陰さまで今でも良好な関係にある。

 前職と悪い関係にならないにこしたことはないが、過剰にそこを気にしても仕方がない。辞めると決めた以上、腹をくくって覚悟をしなければ、今の組織にも、新しい組織にも失礼だ。