こんにちは鈴木寛です。

 新学期早々、沖縄・竹富島(竹富町)が教科書採択を巡る問題で揺れています。いわゆる「教科書問題」についての論議は、政治性を帯びる余り、肝心要の児童・生徒の学力、生きる力、もちろん、国民として習得しておくべき知識も含めて、子どもたちを取り巻く生活環境の実態など、現実的な視点が置き去りにされていると思います。

 企業のマーケティング活動に例えれば、いまの政権・与党が昔の状態に戻らせてしまった教育議論、とりわけ教科書問題は、顧客(子供たち)のニーズや市場環境(子供たちを取り巻く生活環境の変化)を考慮しないプロダクトアウト志向に陥っているのです。

 かつてスティーブ・ジョブズは市場調査を全くやらず、その天才的な感性で、iPhoneに代表されるような人々が潜在的に求めていた製品を体現したわけですが、そうしたやり方が現政権にできるとも思えません。今回は、この問題を突き詰めていくことで見えてくる「インテリジェンス」について考えてみたいと思います。

教科書採択の仕組みと
竹富島問題のおさらい

 教科書問題を考える上で、前提の仕組みから簡単におさらいします。

 ある地域の学校で、どの教科書を使うかは、「義務教育の諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(教科書無償法)に基づいて決まっています。各自治体で教科書の「採択地区」がありますが、人口の少ない地域は複数の自治体で一つの採択地区を構成しています。竹富町は、石垣市、与那国町と同じ地区になります。小さい市町村では、担当する職員・教員が少ないので、すべての教科書を吟味して、そして、その地域にあった教科書の採択を行うだけの人員が確保できないため、複数市町村で共同しているのです。

 教科書無償法では、一つの採択地区では1種の教科書を選定しますが、各自治体の教育委員会で異なる見解が出た場合は、採択地区協議会で話し合って決めなければなりません。

 そして2011年、翌年度から4年間使う中学公民の教科書を決めるにあたって問題が起きます。石垣市教委と与那国町教委は育鵬社の教科書を採択しましたが、竹富町教委は育鵬社を不採択、東京書籍の教科書を採択としました。合意形成を目指したものの、結局、竹富町教委は12年度から、東京書籍版の使用に踏み切ります。

 協議会と異なる教科書を使うという“違法”状態になってしまい、文科省が是正を要求して、竹富町がこれにまた応じないというのが、ここまでの展開です。