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田中均の「世界を見る眼」

日中が尖閣諸島で軍事衝突する可能性はあるか?
衝突回避のために日本が取り組むべき4つの課題

田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長]
【第31回】 2014年4月16日
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悪化する日中双方の国民感情
背景にナショナリズムの高まり

 日中が軍事的衝突に至る可能性は50%。先日私が参加したソウルのシンポジウムで日中韓関係に関するパネル・ディスカッションに先立って、主催者がおよそ500名の聴衆にタブレット端末で投票を求めた結果である。韓国の有識者たちの意識には驚くが、国際社会で欧米やアジアの多くの人々が尖閣諸島を巡り日中で軍事衝突が起こる蓋然性は決して低くないと思っていることも事実なのだろう。

 日本人は戦後、日本を巻き込んだ戦乱の可能性は全く考えてこなかったし、現在、中国と軍事的衝突に至ると思っている人は多くはない。海外では何故、日中の軍事衝突の蓋然性が高いと見られているのであろうか。その背景を考えてみたいと思う。

 まず、日中における双方に対する国民感情の悪化が火を噴くのではないかという懸念がある。中国は共産党政府樹立後、ソ連、インド、ベトナムといった近隣諸国と国境線を巡り軍事衝突を繰り返してきた国であり、中国の歴史にとっても領土の一体性を維持することは軍事力行使を辞さない「核心的利益」と考えられている。

 また、中国は侵略を受けた日本に対する警戒心がとりわけ強く、中国人にとって歴史における屈辱の100年はアヘン戦争ではなく日清戦争での敗北から始まったと言われている。共産党統治の正統性も対日戦争に勝利したことに求められており、天安門事件以降の「愛国教育」の中心概念は抗日戦争の歴史教育である。

 安倍政権の歴史問題にかかわる発言や安倍首相の靖国神社参拝を契機に習近平政権が「抗日戦争勝利記念日」や「南京虐殺記念日」を制度化したのも、政権が国内の反日ナショナリズムと一体化していることを示していると見ることが出来よう。

 日本にも強い反中ナショナリズムが出てきている。各種の雑誌、ネットなどに氾濫しているのは激しい嫌中、中国蔑視の言葉であり、中国の国内リスクの高さを強調する議論である。

 日本では、1972年の日中正常化から30年近くは与野党も世論ベースでも、中国との友好関係を支持する意見が大勢であった。ところがバブルがはじけ、いわゆる失われた20年の停滞期を迎えた間に中国は急速に台頭し、GDPで日本を追い越した。余裕を失った日本人の不満が反中感情に結び付いたとしても不思議ではない。

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田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長]

1947年生まれ。京都府出身。京都大学法学部卒業。株式会社日本総合研究所国際戦略研究所理事長、公益財団法人日本国際交流センターシニアフェロー、東京大学公共政策大学院客員教授。1969年外務省入省。北米局北米第一課首席事務官、北米局北米第二課長、アジア局北東アジア課長、北米局審議官、経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官(政策担当)などを歴任。小泉政権では2002年に首相訪朝を実現させる。外交・安全保障、政治、経済に広く精通し、政策通の論客として知られる。

 


田中均の「世界を見る眼」

西側先進国の衰退や新興国の台頭など、従来とは異なるフェーズに入った世界情勢。とりわけ中国が発言力を増すアジアにおいて、日本は新たな外交・安全保障の枠組み作りを迫られている。自民党政権で、長らく北米やアジア・太平洋地域との外交に携わり、「外務省きっての政策通」として知られた田中 均・日本総研国際戦略研究所理事長が、来るべき国際社会のあり方と日本が進むべき道について提言する。

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