家庭用ゲーム業界は数年おきにゲーム機を進化させ、環境を変化さることで生き延びてきた。この進化したゲーム機は「次世代機」と呼ばれ、ゲーム機が次世代化することによって娯楽ビジネスの宿命である“飽き”と闘ってきたが、娯楽ビジネスに携わる企業体そのものの“次世代化“は必要ないのだろうか。もし、娯楽ビジネスの企業体が次世代化するとすれば、それはどのような姿になるのだろうか。前回に続き、時代の岐路に立つ任天堂の岩田聡社長に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 石島照代)

最近の若い人たちは
「コミュニケーション能力」を問われすぎてて気の毒

いわた・さとる
1959年北海道札幌市生まれ。東京工業大学工学部情報工学科卒。81年HAL研究所入社、92年社長。2000年任天堂入社、経営企画室室長などを経て、02年現職。
Photo by Teruyo Ishijima

――最近思うのですが、親御さんから“大切に”育てられたお子さんは、「人を楽しませる」ことを学ぶ機会がなかなかないように思います。たとえば、我が子がファストフード店でバイトをすることになったとします。でもそこで、お子さんが愛想よく振る舞えなくて怒られるかもしれない。でもその子は家で誰かを喜ばせるようなことをする必要もなく、“大切に”育てられていたとしたら、外でお客さんのために何かをするというのはギャップがある気がするんですね。ここを新入社員となった元大学生にどう乗り越えさせるかは、私の最近の関心事の1つです。

岩田 その問題を解決する方法のひとつは、「人に喜んでもらうことを自分のエネルギーにして生き生きしている人を、目の前で見ること」ではないかと思います。人に喜んでもらうことを面倒だと思っている人が、明らかに自分より充実した人生を送っている人が何をエネルギーにしているかのお手本を目の前で見せつけられたら、人って変わりますよ。

 もちろん、生まれつきそんな姿勢の人ばかりじゃないですから、大学や会社に入ってくる人みんながそうじゃないかもしれない。でも先輩たちがそうしていたらそう染まるし、そうできていなかったらそうはならないでしょう。

――外での経験で変わっていくということですか。

岩田 私は親にたくさんのことを教わったとは思いますが、一方で親だけで自分の人格ができたとはまったく思いません。自分が触れあった友達や先輩、先生や同僚といった人たちがすることを見て、「かっこいいな」、「自分もああなりたいな」と思うこともあれば、「かっこ悪いな」、「ああはなりたくないな」と思うこともあって、その結果自分はこういう人格になったと感じています。だからそのフィードバックをいい方向にかけられるような状況を作って、新しい人を迎えるのがいいのではないでしょうか。