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山崎元のマネー経済の歩き方

レバレッジ運用術を個人は使えるか

山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
【第39回】 2008年7月1日
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 書店のビジネス書の棚を見ると「レバレッジ○○術」というタイトルの本が目につく。書籍のタイトル付けは本当に難しいが、これは、ノウハウのお得感がよく伝わる、なかなか上手いタイトルだと思う。たとえば「レバレッジ運用術」などという本を書くと、結構売れるような気がする。

 レバレッジとはもともと梃子(てこ)のことを指すが、金融の世界でレバレッジというと、投下した元本の額以上の実質的なリスクを取ることだ。個人投資家の場合、株式の信用取引、先物・オプション取引、FX(外国為替証拠金取引)などがレバレッジを利用した取引になる。個人がレバレッジを利用することについては、どう考えたらいいのか。たとえば、金融資産の総額が500万円のサラリーマンが、株価指数先物を使って1000万円相当の株式の買い建てをするのは、どうか。

 多くの場合、こうした投資は「身の丈以上のリスクを取っている」として、肯定的には評価されないだろう。だが、これが絶対にダメなのだということを立証しようとすると案外難しい。

 たとえば、このサラリーマンが、高収入で、健康で、若いなら、彼の人的資本の価値は高い。現在ある500万円にこだわる必要はない。自分の持っている条件を有効に生かすためには、むしろ、レバレッジをかけた運用を行なうことのほうが正しいのかもしれない。

 また、仮に、現状で想定元本1000万円相当の株価指数先物への投資が過大だとしても、たとえば、株価指数に投資することのリスクが現在の半分に縮小するという確信がある場合なら、どうだろうか。本来、実質的なリスクの大きさが問題であり、レバレッジの有無や大きさは副次的な問題だ。

 失敗しても筆者は責任を負わないが、たとえば、若くて元気で高収入な人は、株価指数先物などでレバレッジのかかったポジションを長期的に維持することが、お金持ちへの近道となる可能性はある。限られた個人資産の中で銘柄選択をあれこれ悩むよりも、レバレッジを使った長期運用が手っ取り早くて有効な方法であるかもしれない。投資理論の言葉でいうと、銘柄選択のアルファで勝負するよりも、市場全体の上下に連動するベータで勝負する戦略だ。

 じつは、ローンを使った住宅取得は、レバレッジを使った長期運用の別の例だ。住宅を持つことのメリットを換算した投資収益率と、ローン金利の差(場合によってはマイナス)が、住宅価格のリスクや将来の収入減少のリスクなどに対して概して小さいことについて考えると、一方では、この「不動産の長期信用取引」には慎重にならざるをえない。だが、ローンをなんとか無事にすませることができると、ローン返済のかたちでの強制的な積立貯蓄と、リスクを取った運用の2つを同時に達成することができて、稼いだおカネを消費に回してしまった人よりも、結果的に裕福になることがある。

 レバレッジの弱点は、逆境にあって、追加の証拠金や借り入れの返済が必要になったり、リスクが過大になったりすることだ。レバレッジを伴うポジションは、長期に維持しにくい「弱いポジション」なので、市場全体の「バブル」を判断する場合、レバレッジの大きさは重要な材料となる。

 レバレッジは、個人にとっても時には有力な手段でありうるが、本を読んで初めて「そうだ!」と思うような人には、やはり向かない。一般向けに「レバレッジ運用術」と題する書籍を書くのは、やめておくほうがよさそうだ。

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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。


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12社を渡り歩いた資産運用の現場に一貫して携わってきた視点から、「資産運用」の方法をどう考えるべきか懇切丁寧に説く。投資家にもわかりやすい投資の考え方を伝授。

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