政府は28日の産業競争力会議で、成果に応じて賃金が決まる新たな労働時間の制度について議論を行い、安倍首相は「成果で評価される自由な働き方にふさわしい、労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」と述べた。政府はこれについて、検討を進めたうえで、6月に政府がまとめる成長戦略に具体的な内容を盛り込む予定だ。しかしこれに対し、「残業代ゼロ法案」との声が各所から上がり、批判にさらされている。

なぜいつも労働時間の規制改革が議題に上ると、こうした批判が必ず沸き起こるのだろうか。労働時間規制改革にまつわる世間の誤解を明らかにしながら、この改革の本質を説く。

なぜいま改革が必要なのか

なぜ労働時間の規制改革は嫌われるのか?<br />「残業代ゼロ法案」をめぐる誤解と本質やしろ・なおひろ
国際基督教大学客員教授・昭和女子大学特命教授。経済企画庁、日本経済研究センター理事長等を経て現職。著書に、『新自由主義の復権』(中公新書)、『規制改革で何が変わるか』(ちくま新書)などがある。
Photo by Toshiaki Usami

 5月28日の産業競争力会議課題別会合に提出された長谷川主査ペーパーにある労働時間規制の改革について、「残業代ゼロ法案」という、極端なレッテルが張られている。仮に、いままで貰えていた残業代が無くなるとすれば、誰でも反対するのは当たり前である。しかし、そうではなく、これまでの「(労使協定の下で)残業代さえ払えば、際限なく延ばせる労働時間」という制度に代えて、「労働時間に一定の上限を設けることを使用者に義務付ける」という提案である。

 慢性的に長すぎる労働時間は、社員の健康を悪化させ、仕事の質を引き下げる主因となる。また、限られた時間内で効率的な働き方を望む女性・外国人等、貴重な人材を活用するための妨げにもなる。日本のプロフェッショナル人材が、他国の人材と競争して、質の高い仕事をするためには、長すぎる労働時間の短縮は不可欠になる。そのためには、労働時間の長短ではなく、仕事の成果に応じた報酬の仕組みを、労働法の内に明確に位置づける必要がある。

 長谷川ペーパーの画期的な点は、これまで日本の労働法制には欠けていた、労働時間の上限を設定する「量的制限」という「規制強化」にある。その上で、労働時間と報酬との1対1の関係を切り離した成果賃金の導入を目指している。この仕組みの対象者は、一部の誤った報道にあるような「一般社員」ではなく、「労働時間を自己管理できない者や、随時の受注に応じて期日までに履行するなど、労働時間を自己裁量で管理することが困難な業務」を完全に除外しており、いわば「部下のいない管理職」的な専門職のイメージに近い。なお、外食産業など、営業時間が定められている顧客サービスでは、労働時間の自己管理はできないので、この制度の対象外となるのは当然のことである。