安倍総理は安保法制懇の報告書提出後の記者会見で、母親が幼児を抱いている特大のパネルを示して、同盟国・米国の艦船が日本人を救助しているとき、今の憲法解釈では自衛隊はこれを守ることができないと訴えた。だがこの論は4つの点で重大な誤りがありほとんど嘘、という外ない。確かに、内戦、騒乱は頻繁に起こる。その場合、邦人保護はどうあるべきかを考えてみたい。
シーレーン防衛では外国籍船を守る
5月15日、安倍総理は私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書を受けて記者会見し、自らが指示して作らせた母親が幼児を抱いている図の特大パネルを示して「具体的な例を示したい。いまや海外に住む日本人は150万人(外務省領事局政策課によれば、2012年で125万人)、年間1800万人が海外に出かける(同1850万人)時代だ。その場所で突然紛争が起こる事も考えられる。逃げようとする日本人を同盟国の米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本人自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っている米国の船を自衛隊は守ることができない。これが憲法の現在の解釈だ」と述べて、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使を可能とする必要を訴えた。
だがこの論は4つの点で重大な誤りがありほとんど嘘、という外ない。
第一は海上自衛隊の「シーレーン(海上交通路)防衛」は外国船を守ることを前提としている点だ。日本は第2次世界大戦中に2503隻、829万tもの商船を主として米潜水艦の攻撃により喪失し、インドネシア石油などの物資の輸入が停ったことが最大の敗因となった。その経験から、海上自衛隊は対潜水艦作戦、海上交通の確保を主な目的とし、今日護衛艦48隻(他に訓練用3隻)、P3C哨戒機77機、SH60哨戒ヘリ86機など、米海軍に次ぐ世界第2位の対潜水艦能力を有し、装備の質、練度も優秀だ。
ところが、それが防衛するはずの日本商船は1980年に8825隻、3901万tだったのが、2011年には4164隻(主として内航船)、1536万tに減り、日本船籍の外航船は2013年6月でわずか150隻しか残っていない。円高によって日本人船員の給与や、船の登録料、税金が他国に対し著しく割高になり、国際競争力を失ったためだ。この事態に対処するため船会社はパナマ、香港などに子会社を設立して船を売却、外国人員を雇って危機を凌いだ。2012年で、日本の船会社が雇う外国籍船は2698隻に達し、日本の海運輸入量のうち、日本籍船が積むのは10.1%にすぎず、55.2%は日本の船会社が雇った外国船、34.7%は純粋の外国船で運ばれている。日本人の外航船員は約2200人しか残っておらず、その大部分は陸上勤務で運用の管理などの職務についている。戦乱の場合には外国人船員は下船させ、帰国の航空運賃も支給する協約になっていることも多く、背筋の冷たくなる思いだ。