「今もハッキリ覚えています」若き石破茂に、天才・小泉純一郎がニヤリと笑って放った「ひとこと」Photo:Anna Moneymaker, Tatsuyuki TAYAMA/gettyimages

古今東西の社会や組織において、「改革」を唱える者には、2種類いる。不公平かつ不公正で腐敗をきわめる現状を見かね、自分の利害ではなく公の大義を掲げて立ち上がる者。一方、そうしたピュアな人間たちを煽動し、己の権力闘争のエンジンとして「改革」の美名を使う者。それぞれの時代で権勢をふるった宮澤喜一、小泉純一郎、小沢一郎、安倍晋三に逆らい続けながら改革の旗を振り続けた石破茂は、どちらだろうか。※本稿は、石破茂著、倉重篤郎編集『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

自民党政権ではできなかった
政治改革「小選挙区制の導入」

 政治改革推進本部では、伊東正義、後藤田正晴という見識の高いツートップの下に羽田孜選挙制度調査会長がおられ、そういったベテラン世代の改革派の下で、若手は自由に連日、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を戦わせました。議論は次第に、カネのかからない政治にするには、自民党員同士が争う中選挙区制から政策本位で与野党が論戦する小選挙区制を軸にした制度に変えるしかない、という方向に収斂(しゅうれん)していきます。そして、小選挙区制度のわずかな民意の変化で本格的な政権交代を起こしやすい、という特性が、次第に魅力に思われていきます。

 一方で、いわゆる守旧派、現状維持派はそのマイナス面を指摘し、その攻防が延々と続いていきました。

 我々が「小選挙区の導入こそが政治改革の決め手だ」との論を展開していた時、中選挙区論者であった小泉純一郎先生がこう言われました。「小選挙区なんて制度にしてみろ。首相官邸と党本部の言うことしか聞かない、つまらない議員ばかりになるぞ」。これを聞いて私たちが、「官邸や党本部が間違っていたら、それを指摘するのが自民党議員の矜持です」と反論したところ、小泉先生がニヤリと笑って「キミたちはまだ政治家という人種を知らないね」と仰った。その場面は今もはっきりと覚えています。

 実は、そこは我々がまったく思い至らなかったところであり、天才政治家・小泉先生ならではの洞察だったと思います。私たちは当時、選挙制度を変えることこそが本質的な改革であると確信していましたから。

 それでも、壁は厚かった。竹下登政権で議論が始まり、宇野宗佑、海部俊樹、宮澤喜一政権という歴代自民党政権では片が付かず、結局、実現には細川護煕・非自民連立政権を待たなければならなかった。現在自分たちが依拠している選挙制度を、現役政治家が自分たちで変えることがいかに難しいか、思い知らされました。当然と言えば当然ですよね。自分が大事に大事に培ってきた従来の選挙基盤を自己否定することになるのですから。

 政治家とは自分の利害ではなく公の大義によって動く。国民世論の声に真に耳を傾けそれに従う。それが政治家の本来あるべき姿ではないか、と自らを鼓舞する日々でした。