『自分のために生きる勇気』発行記念対談企画第二弾。白木夏子さんがメンターと仰ぐレオス・キャピタルワークの藤野英人氏。追い込まれたときにどうするか? 藤野さんの人生を変えた「先生」とは? など、つらいときの心の持ちようについて語っていただきました。

思い通りにならないけれど、<br />理不尽ではない人生を生きる <br />――白木夏子×藤野英人特別対談後編

追い込まれたときは、ボールを手放せ

白木 今回、この『自分のために生きる勇気』では、自分の内面と向き合う方法や不安定な気持ちを落ち着かせる方法、平穏でいられる方法をまとめたんです。こうした方法は自分が起業する中で見つけてきたのですが、藤野さんは壁に当たったり追い込まれたりしたとき、どう乗り越えられていますか?

藤野 追い込まれたとき……。もうほんと、大変ですよね(笑)。

白木 はい、大変です(笑)。

藤野 そもそも、「追い込まれる状態っていうのはどういう状態か?」ということを考えてみると、「考えられるキャパシティを超えたとき」だと思うんですよね。考えることができるうちは、まだぜんぜん追い込まれてなんかない。

白木 なるほど。

藤野 本当に追い込まれると、自分の頭で考えることができなくなるんですよ。しかも、そういうときはたいてい自分ではコントロールできない要素がどんどん増えていくから、どんどんつらくなる。これを一番痛感したのは、やっぱりリーマンショックのときです。あのときは、自分ができることが少なかったからこそしんどかった。

白木 リーマンショックなんて、まさに不可抗力ですものね。

藤野 そういときにどうすればいいかというと、まずは「捨ててはいけないもの」と「捨てていいもの」を完全に分ける。そして、捨ててはいけないものに優先順位をつけて、最悪、ここだけは守りたいというものを決める。……それでも、最終的には全部投げ出す覚悟を決めるしかないんです。

白木 投げ出す、というと?

藤野 一瞬、他の人にパスしてしまうんです。コントロールを失ったときは、手放すしかありません。ラグビーに「ノット・リリース・ザ・ボール」という反則があるんですが、知っていますか?

白木 「ノット・リリース・ザ・ボール」?

藤野 タックルされて倒れたプレーヤーがいつまでもボールを離さないときに下される反則なのですが、追い込まれたときもこれと同じです。一度、ぱっと自分の手を開く必要があるんです。そうしないと、結局みんなから強制的にはぎ取られてしまう。

白木 しがみついてしまうと、最後に何も残らないわけですね。

藤野 そう。だから、コントロールを失ったらパスをしてしまう。自分をクローズして、自分の力でどうにかしようと思っては駄目です。だって、それはもはや「考えられていない状態」だから。じゃあどうすれば良いかというと、「今、こういう状態です。どうしたらいいですか」と頼って投げ出す。そうすると、相手が役割を与えてくれるものなんです。

白木 自分をできるかぎりオープンにしてしまう、と。相談のお話と同じですね。

藤野 優先順位のいちばん先にあるのは「生き残ること」なんですよ。それは死守しないといけない。大きな失敗をしたとき、生き残る人と生き残らない人がいますよね。前者は「再び自分の納得できる形で活躍できる人」。そして後者は、「後ろ指を指されて二度と社会の中で活躍できない人」です。なるべく失敗はしたくないけれど、することはある。それなら、生き残る人になるしかないですよね。

白木 そのためには「手放すこと」が大切なんですね。

藤野 結局、それができる人が生き残る人になるんですよ。リーマンショックのとき、株主に対してとか、借入金とか、返さないといけないお金がたくさんあるのに、資産を失いたくないという一心で海外送金したり隠したりした経営者はたくさんいました。けれど、そういうことをした人は全員生き残っていないんです。一方で、そのとき全部オープンにして周りに頼った人は、今も生き残っている。最後の最後になったら手放す覚悟を持たないと、再起することすらできなくなるんです。

白木 何億もの借金を背負ってから再起した方のお話、よく聞きます。そういうお話を聞くたびに「失敗なんて怖くないな、思い切ってやろう」と元気をもらいますが、再起した方は法に触れることや汚いことをしなかった人なのですね。

藤野 そうなんですよ。破産みたいに大きな話でなくても、どんなことでも困ったらオープンにしてしまう。考えられない状態で行動してしまうと、より事態は悪化してしまうばかりです。信頼できる人、パートナーにすべて明らかにして、解決策を一緒に探っていくしかないんです。

白木 うーん、すごい、重みのあるお話ですね。