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西沢和彦の「税と社会保障抜本改革」入門

経済前提の甘さに批判集中の「年金財政検証」
厚労省の“本丸”はオプション試算にあり

西沢和彦 [日本総合研究所調査部上席主任研究員]
【第17回】 2014年6月25日
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6月3日、厚生労働省は、年金の「財政検証」結果を公表した。財政検証は、将来の人口や経済変数に一定の前提を置き、今後およそ100年間の公的年金(国民年金と厚生年金)財政の姿を描き出す作業であり、5年に一度実施される。その公表を受け、経済前提が楽観的であることや経済前提ごとに示された8ケースのうち5ケースで、引き続き100年安心が示される予定調和的な結果に批判が集まっている。だが、実は今回の財政検証の本丸は、財政検証本体に併せて行われた「オプション試算」にあり、こちらにも注意を払っていかなければならない。

オプション試算にこそ
厚生労働省の本音

 今回の財政検証では経済前提ごとにケースAからHまでの8ケースが示されている(図表1)。オプション試算は、3つの制度改正オプション(選択肢)を実施した場合に、各ケースがどのように変化するか、その効果を測ったものである。これを中心に法改正の議論を進めていこうというのが、厚生労働省の目論見だ。

 実際、前回の2009年財政検証の際は、100年安心がひたすら強調された財政検証結果が審議会(社会保障審議会年金部会)に報告されると、審議会は早々に手仕舞われてしまった。しかし、今回は、オプション試算を論点とし引き続き審議会が開かれていく見通しだ。

 厚生労働省の立場を推測すれば、ジレンマを抱えている。2004年の年金法改正において100年安心をうたった与党(自民党・公明党)の面子もつぶせず、他方、実態は100年安心などではないことから、法改正は是非やっておかなければならない。そこで、財政検証本体では、5つのケースで100年安心を演出しつつ、そうではない3ケースも並列させることで100年安心をことさら強調もせず、さらには、オプション試算も行うことによって年金法改正の機運を作っていく――これが厚生労働省の戦略といえる。

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西沢和彦 [日本総合研究所調査部上席主任研究員]

ニシザワ カズヒコ/1989年3月一橋大学社会学部卒業、同年年4月 三井銀行入行、98年より現職。2002年年3月法政大学修士(経済学)。主な著書に『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社、11年6月)『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社08年4月、第51回日経・経済図書文化賞) など。(現在の公職)社会保障審議会日本年金機構評価部会委員、社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会委員。


西沢和彦の「税と社会保障抜本改革」入門

増加する社会保障費の財源確保に向けて、政府は消費税引き上げの議論を本格化させている。だが、社会保障をめぐる議論は複雑かつ専門的で、国民は改革の是非を判断できない状態に置かれている。社会保障の専門家として名高い日本総研の西沢和彦主任研究員が、年金をはじめとする社会保障制度の仕組みと問題点を、できるだけ平易に解説し、ひとりひとりがこの問題を考える材料を提供する。

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