クリス・アージリス

 クリス・アージリスの経歴を見ると、マネジメントのグル(権威)というよりは正統的な学者のように思える。彼は研究人生のほとんどをアメリカのトップクラスの2つの学術機関で過ごしている。1950・1960年代にかけてはエール大学、それ以降はハーバード大学である。しかし、堅苦しい学者かといえばそうではない。彼はマネジメントや組織の問題に情熱的な関心を注いでおり、現代の最も尊敬されるマネジメント思想家の1人である。

 アージリスは、数少ない特殊な「学俗両道」のマネジメント専門家の1人であり、学究的な世界と同じぐらいに生産現場や役員会議室といった俗世界の状況にも通じている。

 アージリスはまず何よりも行動科学者であり、組織行動やマネジャーの学習の仕組みを解き明かした業績によってこの分野の先駆者となった。彼のスタイルはかなり独特である。彼は自分の仕事に線引きをしないよう心がけており、研究活動、教育活動、コンサルティングのそれぞれに同じウェイトを置いている。彼は、この3つは相互に関係があり、互いに役に立つと考えている。

人生と業績

 クリス・アージリスは1923年に生まれ、若い頃から、人はどのように学習するのかという点に関心を持った。「子供っぽいかもしれないが、私は学ぶということそのものが大好きだ」と彼は言う。第2次世界大戦に出征したのち故郷に戻った彼は、当時の若者の多くと同じように、世界をもっと良くするために何かしたいと強く心に誓った。われわれにとって幸いなことに、彼は教育に対する自分の関心を、組織やそれに属する個人の問題に向ける道を選んだ。彼はこの仕事をするのに申し分のないエネルギーと並外れた学問的素養(心理学の学士号、経済学の修士号、組織行動論の博士号を取得)を持ち合わせており、1950年代の初めには、エール大学で教鞭を執り研究活動を行なっていた。

 1960年代半ばにはエール大学の産業経営学教授となっていたが、1968年にハーバードビジネススクールへ移り、1971年に教育・組織行動論のジェームズ・ブライアント・コナント記念教授となった。

 彼のコンサルタントの仕事は多岐にわたり、その影響力は絶大である。クライアントリストには、IBM、デュポン、シェル、アメリカ国務省やその他のアメリカ政府機関、および複数の外国政府が名を連ねている。

思想のポイント

 仕事を豊かなものにすることに強い使命感を持っているアージリスは、テイラー流の極端な科学的経営管理の思想、特に、人間を雇うのではなく非人格的な「仕事をする手を雇う」という考え方に対し絶えず戦いを挑んでいる。