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「いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ」吉川 洋・東大大学院教授

【第53回】 2009年4月7日
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いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ
『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学』吉川 洋[著]定価1890円(税込)

 「見えざる手」。この言葉は、数ある経済学の言葉のなかで最もよく知られたものだ。私利私欲に基づき各人がばらばらに行動する市場経済は、中央に司令塔があるわけでもないのにけっして無秩序に陥るわけではない。それはまるで神の「見えざる手」に導かれるように調和を生み出す。『国富論』のなかでアダム・スミスはこう書いた。

 スミスの大らかな何もかもを包摂するような議論は、やがて19世紀末レオン・ワルラスの「一般均衡理論」を経て20世紀に入ると市場経済の「効率性」を説くドグマと化した。過去40年、このドグマは、景気循環や失業など市場経済が抱える「問題」を分析すべく生まれたマクロ経済学にも深く浸透した。合理的期待理論、効率的市場仮説、実物的景気循環理論といった名前で知られる新古典派の均衡論的マクロ経済学が研究の一線で主流を占め、世界中の主要大学の大学院ではそうしたマクロ経済学が教えられるようになった。新古典派のチャンピオンであるロバート・ルーカスは、ケインズ経済学など無くて結構と宣言した。

 ところがどうだろう。2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが破綻し世界的な同時不況が深刻化すると、40年間劣勢を続けたケインズ経済学はわずか3ヵ月にして復活した。著名な投資家ジョージ・ソロスは、世界経済の現状について厳しい見方を披瀝したうえで「救いは1930年代の経験とケインズの処方箋にある」と書いた(『フィナンシャル・タイムズ』2009年1月29日)。

 2001年、『Kei』(ダイヤモンド社)の創刊号から私は「今こそケインズとシュンペーターに学べ」という連載を書いた。何と先見の明に溢れるタイトルだったことか。もっともこのタイトルは私ではなく、文字どおり先見の明を持ったダイヤモンド社の編集者が付けたものだったのだが……。

 それから8年、中断した連載は同名のタイトルを持つ本として刊行されることになった。時あたかもわれわれは世界的な金融危機のなかで戦後最悪の不況を経験しつつある。こうした日本経済の現状を理解するための経済学はケインズ経済学しかない。最近あるところで若い経済学者が、労働も資本も技術の水準も以前とまったく変わらないのになぜ経済はマイナス成長に陥るのだろう、と不思議がっているのに遭遇した。言葉を失ったが、私は心のなかで叫んだ。ケインズに学べ!

 ケインズの「有効需要の理論」は、現在進行中の「100年に一度」といわれる不況を理解するのに不可欠だ。しかし経済の持続的発展を考えるためには力不足である。そこに登場するのがシュンペーターの力説したイノベーションだ。経済の成長と循環を理解するために、今こそケインズとシュンペーターに学べ!

吉川 洋(東京大学大学院経済学研究科教授)


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