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だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

横綱・朝青龍の最大の敵は、「品格症候群」の人たち

谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]
【第14回】 2009年2月2日
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 今年の大相撲初場所は、異常な人気で両国国技館は沸きに沸いた。そればかりか、テレビ中継でも異常に高い視聴率を記録した。

 一体、何が起こったのか――。月並みな言い方をすれば、人気沸騰の最大要因は、3場所連続休場した横綱・朝青龍が予想を覆して優勝し、見事な復活劇を見せつけたこと、とでもいえようか。

初場所の異常人気を
生み出した“野次馬根性”

 なにしろ、メディアはこぞって、右ひじの故障を抱えていたことで場所前には、「引退危機」と朝青龍の引退の可能性を示唆するような報道を行なった。また、多くの親方連中をはじめ相撲評論家にいたるまで、朝青龍の復活について懐疑的な見方をしていた。

 ところが朝青龍は、そうした見方を嘲笑するかのように、あれよあれよという間に勝ち進み、無敗で千秋楽を迎え、白鵬との優勝決定戦を制して見事に復活した。

 メディアは、加熱報道を通して、「スキャンダルメーカー・朝青龍」のイメージを作り出した。そのイメージを真に受けて“野次馬根性”から朝青龍を追っかけた人たちが、国技館の観客やテレビ観戦した視聴者の中にかなりいたのではなかろうか。

 朝青龍が負けようものなら「待ってました」とばかり、観客は朝青龍に座布団の雨を降らせ、メディアは「引退危機」を大々的に報じたに違いない。

 優勝を決めた瞬間の両手を高く掲げたガッツポーズや、優勝インタビューでの「朝青龍は還ってきました」という発言などには、朝青龍の万感が込められているように思われた。

またぞろ飛び出した
「品格なし」の非難

 朝青龍の見事な復活劇によって初場所は、興行的に大成功し、日本相撲協会幹部たちは笑いがとまらなかったであろう。

 武蔵川理事長(元横綱・三重ノ海)などは、場所前の懐疑的な評価を一転させて、「凄いとしかいえない」と朝青龍を絶賛する有様。千秋楽から一夜明けた1月26日、高砂部屋で朝青龍が記者会見し、「正直優勝する自信はなかった。よく頑張ったと思う」など、優勝について終始笑顔で率直に話した。

 一方、同日、国技館では横綱審議委員会が開かれ、朝青龍の「ガッツポーズ」について、「長く相撲を拝見しているが、こんな横綱はいなかった」(沢村田之助委員)、欠席した映画監督の山田洋次委員も「品格ゼロ」との意見を寄せるなど批判が出されたという。

 朝青龍を絶賛していた武蔵川理事長も横綱審議委員の批判で態度を豹変させ、「今後は厳しく対応する」というような発言をした。

 「ガッツポーズ」を「品格がない」と否定した横綱審議委員、それに同調した武蔵川理事長たちは、まともではなく、「品格症候群」の病に罹ってしまっているのではないか。スポーツ競技者が優勝を果たした瞬間に喜びや達成感、誇らしさなどを込めてガッツポーズをとるのは、極めて自然なことである。まして朝青龍の場合、「引退の危機」と騒がれるなかで優勝を果たし、こみあげてくる万感をガッツポーズで表出したものと理解できる。

 そうした競技者の心理、心情を汲み取ろうともせず、国技という思い込みを前提にした「品格」という自閉的な伝統に固執して、ガッツポーズを否定するのは、「品格症候群」としかいいようがない。

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谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]

1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。


だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。

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