日本の「ベンチャー生態系」はこれから成熟する

中学生ベンチャーキャピタリストに<br />リアリティがある時代がやってきた磯崎哲也(いそざき・てつや)1984年早稲田大学政治経済学部卒業。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システム等の経営コンサルタント、インターネット産業のアナリストとして勤務した後、1998年ベンチャービジネスの世界に入り、カブドットコム証券株式会社社外取締役、株式会社ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師等を歴任。公認会計士、税理士、システム監査技術者。現在、Femto Growth Capital LLP ゼネラルパートナー。 著書に『起業のファイナンス』(日本実業出版社)、『起業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社)があるほか、ビジネスやファイナンスを中心とする人気ブログ及びメルマガ「isologue」を執筆。

三田 ベンチャーの市場は、日本ではまだかなり小さいわけですよね。サイズとしてはどの程度の規模ということになるんですか。

磯崎 仕事でベンチャー投資をしている人は、まだ日本全体で数百人といったところだと思います。

三田 ああ。じゃあほんとうに小さいコミュニティなんですね。「村」と呼べる規模というか。それで、今のベンチャー「村」の調子はどうなんですか。

磯崎 ここ数年、ようやく活況といえる様相になってきました。5年前には、ベンチャー関連のイベントは年に数回、数えるほどしか行われていませんでしたが、ここ数年は、ほぼ毎日どこかで開かれているような状態ですし、ベンチャー投資ファンドの数やそのファンド総額も大きく伸びています。ベンチャーの好循環がようやく回り出してきたといえるでしょう。

 2000年代に入って、日本でも楽天やDeNAなど時価総額1000億円超のベンチャー成功例がいくつもでき、ベンチャーに必要な、経営や技術のノウハウを持った人たちが多数生まれました。ベンチャー界に流入する人材も増えてきています。2000年ごろはまだ、「ベンチャーに行くのは、大企業に入れなかった人間」といった認識が強かったと思いますが、昨今は明らかに潮目が変わっています。

 学生も、まだ慶應や東大など、ごく一部の大学の一部の学部が中心ですが、優秀で元気な人ほど、ベンチャーで力を存分に発揮したり、みずから起業する動きが出てきています。

三田 盛り上がってくれば、当然ベンチャーに注目する投資家も増えるわけですよね。ベンチャーをサポートする弁護士や会計士も出てくるのでは。SNSなどを通して情報も行き渡るでしょうし。

磯崎 そうです、いろいろな立場の人が集って、ワイワイとやりながら成長しているイメージです。ベンチャーを取り巻く人やサービスの有機的なつながりを、よく「ベンチャー生態系」と言います。日本では、ようやくこの「生態系」が機能し始めたということです。

三田 これまでは生態系がなかったから、日本にベンチャーが根付かなかったと。なるほどわかりやすいですね。ベンチャーが出てこない理由としては、よく日本人の由来や性格的な問題と結びつける言い方がありましたよね。日本人は農耕民族だから、「和を持って貴し」と考える、勝ち負けが支配する投資やビジネススタイルには向いていないのだ。対して欧米のアングロサクソンはもともと狩猟民族であって、獲物をしとめる本能がある、投資という戦いに臨むのに利があるなどと。あれは俗説と考えていいのでしょうか?

磯崎 根拠がない話だと思います。単純にベンチャーの歴史が米国に比べて四半世紀遅れてスタートしたので、ベンチャーの生態系や、先ほどの優先株式のような仕組みの発達が遅れているだけですよ。「農耕民族」「狩猟民族」と言いますが、私自身、農耕仕事をしたことはありませんし、狩猟で食っているアングロサクソンの人も見たことがありません(笑)。