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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

「入学は簡単だが卒業は難しい」
大学教育の欧米スタイル導入はなぜ失敗したか

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第88回】 2014年8月22日
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 今更な感じがするが、サッカーのワールドカップを観て、ずっと考えてきたことがある。日本代表の予選敗退については、さまざまな議論があり、素人でしかない筆者が入り込む余地はない。ただ、筆者の海外経験から、考えさせられることはいろいろあった。例えば、元日本代表・名波浩氏のTV解説でのコメント「他国のエースは、得点の絶好機に『危険な場所』に立っている」は、大変興味深いものだった。

W杯での本田、香川らの
「予想を超えた勤勉さ」

 日本と対戦した敵のエースたち、ディディエ・ドログバ(コートジボワール)、ハメス・ロドリゲス(コロンビア)のピッチ上での動きを思い出してみる。彼らは本田圭祐や香川真司ほど、前線で走り回っていた印象はない。「全員攻撃、全員守備」は現代サッカーの基本的な戦術なので、彼らも守備をするように監督から指示があったはずだが、適当に「やったふり」をしていたように見えた。その代わり、味方がボールを奪取して攻撃に転じた時には、ドログバやロドリゲスは、一瞬にして観ているこちらが肝を冷やすような、絶好の場所に立っていた。

 一方、名波氏の指摘は、本田、香川、岡崎ら日本の攻撃陣が、得点の絶好機にもかかわらず、「危険な場所」にいなかったということでもある。彼らは、アルベルト・ザッケローニ監督の「前線からの守備」という指示を守るために、実に「勤勉」にボールを持つ敵を追い回していた。だが、味方がボールを奪い返して、いざ攻撃という時、ゴールを狙うラストパスを出したい場所に、彼らエースたちはいなかったのだ。

 ザッケローニ監督の誤算は、本田、香川、長友、内田らワールドクラスと評価された選手たちの「予想を超えた勤勉さ」だったのではないだろうか。監督は、日本人の戦術的指示を忠実に守る「勤勉さ」を愛していた。たが、まさかワールドクラスの選手が、ここまで「勤勉」であるとは、監督の常識を超えていたのだろう。

 ザッケローニ監督の母国イタリアでは、監督が選手に戦術面のみならず、集団生活から厳しい規律を課している。それは、イタリア人が真面目な国民性だからではない。むしろ逆である。イタリアの選手たちは基本的に我儘で、勝手な事ばかりするから、厳しい規律なしではチームとして成り立たないからである。

 しかし、どんなに厳しい規律を課しても、「10番」のエースプレーヤーの我儘は抑えることができない。むしろ、規律を逸脱した我儘さは、時に観る者を圧倒的に魅了する「ファンタジー」あるスーパープレーを生むとして、最終的には称賛されてきた。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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