先に挙げた「勇魚取絵詞(いさなとりえことば)」という本のなかに『生月御崎浦骨納屋図』という絵がある。解体の方法は皮を引きはがす道具がウインチに変わったくらいで、絵に書かれているのと同じだ。そこでも肉は樽に放り込まれているので、ひょっとすると江戸時代から続く方法なのかもしれない。

 昔ながらの解体光景はたしかに伝統を感じさせるが、クジラが魚だと思われていた時代のやり方でいいのだろうかとも思う。気温の高い野外で作業をおこなっていることも含めて、クジラの食味はひょっとすると向上する余地があるのではないか……という気がした。

解体作業が終わったら、皆さんアイスクリームを食べて休んでおられました

 帰りに『道の駅・和田浦WA・O!』に寄った。シロナガスクジラの骨格標本が目を引く施設で、観光バスが停まっているせいか、ここも賑やかだった。物販スペースではクジラの加工品が並び、さらには全国から集められたクジラの大和煮の缶詰が並べられていた。

 社長の櫟原八千代さんはこの町の観光を支える一人だ。

「ツチクジラは北海道でもとれますけど、味は全然違います。北の方と南のこちらではクジラが食べているものが違うんですね。こっちのはイカなんかを食べているから、同じツチクジラでも肉はこちらのほうが軟らかくて、美味しいと思います」

 この道の駅には年間数万人が訪れている。クジラとは関係ないが、落花生ソフトクリームは絶品だった。ソフトクリームといってもミルク感が強くなく、落花生の香ばしい味が口に広がる。一度、食べる価値のある品だ。

「クジラはローカルな食文化だから、なかなか外に出て行かないんです。でも、ここで生まれ育った私たちにとってクジラは郷土の誇りなんですよ」

 なるほど、クジラは和田浦という町に自然に溶け込んでいた。外に出ないローカルな食文化故に、和田浦は町としてのアイデンティティを確立し、それが観光客にとっての魅力になっている。グローバル化が進み均質化してしまった世界のなかで地域性はむしろ貴重だ。ローカルであることは決して悪いことではないのだ。

 町の人々はクジラを愛しているのだ。そして、訪れる観光客の姿を見て「日本人はつくづくクジラという生き物が好きなのだな」と僕は思った。

【動画】外房捕鯨株式会社 鯨の解体

(写真・映像/志賀元清)

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