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佐高 信の「一人一話」

「統一コリアチーム」を実現 
元世界卓球チャンピオン、荻村伊智朗が起こした奇跡

佐高 信 [評論家]
【第4回】 2014年9月16日
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 存命ならば今年82歳になる荻村の名を、いま、どれだけの人が知っているだろうか?日本が世界で一番卓球が強かった時代を知っている人も少なくなった現在、「オギムラって誰?」と尋ね返す人の方が確実に増えていると思われる。しかし、在日の朝鮮・韓国人の間では格段に知名度が高まる。畏敬の念を込めて、「ああ、オギムライチローね」と答える人が多いのである。

韓国人と北朝鮮人が一堂に会して
アリランを歌う奇跡

 その理由を語るために、昨年春、東京は渋谷の小さな映画館を皮切りに全国で上映された映画『ハナ~46日間の奇跡』の話から入ろう。ハナとは韓国語で「一つ」という意味で、韓国での原題は『KOREA』だった。

 城島充の荻村伊智朗伝『ピンポンさん』(角川文庫)に描かれている如く、荻村は「奇跡」を起こした。

 1932年生まれの荻村は2度、シングルスの世界チャンピオンになった後、国際卓球連盟の会長に就任し、1991年春、千葉の幕張で開かれた世界卓球選手権大会に驚異的な粘りを発揮して「統一コリア」チームの参加を実現させる。この時、荻村は韓国に20回、北朝鮮に15回も足を運んでこの夢を現実のものとしたのである。これを奇跡と言わずして何と言おうか。

 このチームは女子の団体戦で中国を破って優勝し、表彰式では朝鮮半島をデザインした青い旗が掲げられ、「アリラン」の大合唱となった。分裂国家の悲劇か、韓国籍を持つ在日と北朝鮮籍を持つ在日は日本においてもめったに会うことはない。それが一堂に会して統一チームを応援し、優勝に興奮して「アリラン」を歌った。一瞬とはいえ、忘れられない体験だろう。

 卓球は1926年の国際卓球連盟創設以来、国旗や国歌を使わず、加盟は国単位ではなく協会単位、選手はアマチュアとかプロの区別をしないという憲章の下にやってきた。しかし、1988年のソウル・オリンピックに参加したいがために、77年に憲章を変え、国旗と国歌を使い、アマとプロの区別も導入するとしてしまった。それでも50年余の前憲章の精神は生きていたのだろう。それが素地となって、荻村は「統一コリア」チームを実現させることができた。この時、荻村の娘の直実は、クールな荻村にしては珍しく、家の中で、青い旗を振りながら、鼻歌で「アリラン」を歌う荻村の姿を目撃している。

 しかし、統一チームが優勝した実話を基にしながら、韓国の若い監督がつくった『ハナ』にはオギムラのオの字もない。知らなかったのだから致し方ないが、それでも『ハナ』は感動的な映画である。「奇跡」をドラマにしたのだから、ある意味では当然だろう。

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佐高 信 [評論家]

さたか・まこと 1945年山形県酒田市生まれ。評論家、『週刊金曜日』編集委員。高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家に。「社畜」という言葉で日本の企業社会の病理を露わにし、会社・経営者批評で一つの分野を築く。経済評論にとどまらず、憲法、教育など現代日本のについて辛口の評論活動を続ける。著書に『保守の知恵』(岸井成格さんとの共著、毎日新聞社)、『飲水思源 メディアの仕掛人、徳間康快』(金曜日)など。


佐高 信の「一人一話」

歴史は人によってつくられる。ときに説明しがたい人間模様、ふとした人の心の機微が歴史を変える。経済、政治、法律、教育、文化と幅広い分野にわたって、評論活動を続けてきた佐高 信氏が、その交遊録から、歴史を彩った人々の知られざる一面に光をあてる。

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