あの日は、小さいながら断乎として護憲の旗を掲げ続ける社民党に対する弾圧があまりにひどいではないかという記者会見をしていた。当時まだ社民党にいた辻元清美だけを秘書給与問題で逮捕したことに抗議してである。

 大橋巨泉、私、そして三木武夫元首相の妻・三木睦子と並んでいて、少し遅れてやって来た落合恵子が三木の隣にすわるなり、小声で囁いた。

「生前、父が三木(武夫)先生に大変お世話になりまして……」

 すると、それを包み込むように、「すべて承知しております」と三木が遮った。

 婚外子として生まれた落合が父のことは語りたくないのに、やはり、ここはと切り出した言葉を、それ以上言わなくていいと、スッと引き取った三木を「さすが」と思うと同時に、『あなたの庭では遊ばない』という小説まで書いている落合が、あえてそう言った胸の裡を思って、私は「ウーン」と唸った。

 しかも、その遣り取りは私にしか聞こえていないのである。落合には叱られるかもしれないが、世代の違う2人の名優の真剣勝負を見たような気持ちで、私は記者会見の本題に頭が戻るのに、しばらく時間がかかった。

 三木睦子は、夫より彼女を総理にした方がよかったのではないかといわれた傑物、もしくは傑女である。私も大好きな女性だったが、あるいは落合がその後を継ぐことになるのかもしれない。同じ敗戦の年の生まれで、4日だけ姉さんの彼女とは、護憲、反原発等の市民運動を共に進め、『週刊金曜日』の編集委員も一緒にやっている。

男をドキッとさせる女
尾崎放哉すら一刀両断

 ある時、私は講演に行って、「落合恵子は男を泣かせるワルイ女です」と話し始めた。

 その前に落合が講演をし、いのちいっぱいに生きる女のひとの手紙を紹介しながらの話に、思わず熱いものを眼にあふれさせてしまったからである。

 落合はまた、「男をドキッとさせる女」でもある。知り合って25年ほどになるが、その間、私は何度、彼女にドキリとさせられたかわからない。