世界五大陸に30数店舗を展開しながら、NOBUが高いクオリティを維持し続けている秘密はどこにあるのか? フランス人シェフのエルベ・クートットと、ノブ・レストラン・グループのコーポレート・ディレクター、田原史啓(ヒロ)に、「NOBUスタイル」と呼ばれる料理とマネジメントのスタイル、さらに根底にあるNOBUの哲学を語ってもらった。(インタビュー:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

手を見せただけでシェフに採用?

―ーNOBUというレストラン、そしてノブ・マツヒサとの出会いは?

エルベ 私の場合はロンドンでした。2000年ごろ、パリでレストランをオープンするためシェフを募集しており、NOBUロンドンでの面接でノブさんに初めて会ったのです。当時私は、中東カタールのドーハにあるシェラトンホテルでフレンチのシェフを務めていましたが、以前から日本に行きたい、日本料理を学びたいと希望していました。しかし、フランス人を雇ってくれる日本料理店はありませんでした。そんななかで友人が、NOBUという有名な店がパリでオープンすると教えてくれたのです。その時までNOBUについては知りませんでした。ウェブサイトをチェックしてよいレストランだと感じました。

 ノブさんとの面接はわずか10分ほど。私に「手を見せて」と言うので、「オーケー」と見せると、彼は私の手をつかんで「オーケー、採用だ」と言ったのです。後に、なぜ手を見ただけで決めたのかと尋ねると、「やけどの跡や傷痕がないかを見たんだ。何もなければ、もう現場で調理をしてないシェフだとわかるから」とノブさんは答えました。ホテルのエグゼクティブ・シェフは調理場にあまり立たず、オフィスで過ごすことも多いのです。ノブさんのフィロソフィーは「シェフはキッチンに立って調理をしてこそ、シェフ」というもので、その価値観が私と一致したということでしょう。

皿洗いのスタッフもシェフも、皆平等エルベ・クートット:中東地域とロシアのNOBUのエグゼクティブ・シェフ。ヒロ(田原史啓):NOBUニューヨークのウエイターとしてスタートし、ニューヨークの3店舗を統括するマネージャーからコーポレート・ディレクターに。

「あなたはフレンチのエグゼクティブ・シェフだが、すぐにシェフとしてパリに行きたいか、それともロンドンで日本料理を一から学びたいか?」とノブさんに聞かれました。日本料理の初心者として学ぶことが私の希望でしたので、2ヵ月間、NOBUロンドンで仕事をしながらトレーニングを受けました。一番下からあらゆるセクションを見せてもらい、日本料理のコンセプトと実務を勉強したのです。ノブさんがロンドンに来たときは直接、そして多くはロンドンのシェフたちに教えてもらいました。