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双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける
【第2回】 2014年9月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
ティム・スペクター,野中香方子

「同性愛遺伝子」は本当に存在するのか?
――同じ環境でゲイとストレートになった双子の物語

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体重差が27キロある双子、一方だけが乳癌になった双子、ゲイとストレートの双子……。「同じ遺伝子を持ちながら、まったく違う双子」は、遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。
この「何か」こそ、いまや生物学・遺伝学だけではなく、長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。言うなれば遺伝子上にある「スイッチ」で、これがさまざまな要因でオン・オフされることで、遺伝子の働きが変わるという。
『双子の遺伝子』が日本でも発売された遺伝疫学の権威が、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、エピジェネティクスについて紹介する連載第2回。今回登場するのは……。

ナイジェルとマークの場合
――ゲイとストレートに分かれた双子の兄弟

ナイジェルが、自分が他の男の子と違うことに気づいたのは、13歳くらいの時だった。

 「女の子に対して、友人たちが抱いているような感情を持てなかったの。男性が出てくるエロティックな夢を見るようになって、そういえば、女の子の夢を見たことがないことに気づいたのよ」

 ナイジェルの家族に同性愛者はいなかった。彼は自分の感情にいらだち、その後の3年間は怒ってばかりいた。16歳の時、あるパーティで出会った女の子と散歩して、キスをしたが、「何も感じなかったわ」。

 17歳の時、これが学校で過ごした最後の年だったが、他の生徒たちから「離れられない友だち―サイモン」がいることをからかわれ、「サイモンのボーイフレンド」と呼ばれた。ふたりは笑い飛ばしたが、実際のところサイモンは複数の男子生徒と付きあっていた。ふたりは密かに互いのことを深く知り、マスターベーションやオーラルセックスをするようになったが、サイモンはナイジェルに内緒で女の子とも付きあっていた。ナイジェルはその時点で、自分は間違いなく同性愛者だと気づいた。

 ナイジェルは学校を卒業すると、家を出て、コックになるための修行を始めた。同時にゲイのコミュニティに入ったが、後悔はしていない。その頃、家族にも自分が同性愛者だということを告白した。ナイジェルの双子の兄弟であるマークはその時のことを回想してこう言った。「正直言って、それほどショックじゃなかった。最終学年の頃にはうすうす気づいていたから――でも、それ以前は全然知らなかったよ」

 マークは看護師をしていて、ナイジェルと同じくスポーツが嫌いだ――これは、ニュージーランドではかなり珍しい。ふたりとも、芸術や音楽のほうが好きなのだ。マークは言う。「ぼくは奥手で、初めてセックスしたのも、女の子と真剣に付きあうようになったのも、20歳を過ぎてからだった。男性の夢を見たことはないね。でも、女性だけじゃなく、同性愛者の男性も、友達として付きあうのは好きなんだ。ナイジェルに誘われてそんな店によく行くので、誘われることにも慣れているしね」

 22歳の時、バーでとてもハンサムな男性がマークに熱心に話しかけてきた。何時間もおしゃべりをして、シャンパンを3本もおごってくれた。とうとうマークは彼の部屋に同行し、そこでキスをして、服を脱いだ。

 「彼と裸でベッドに入り、ふいに気づいたんだよ。ちっともその気になれないってことに。ぼくは起きあがって、彼に謝って部屋を出たんだ。ナイジェルとぼくはほとんどの面でよく似ているけれど、パートナーの選択に関しては、まったく違うってことがよくわかったよ」

 マークは5年前に結婚し、娘をひとりもうけ、幸せに暮らしている。ナイジェルはマークより体重が8キロ軽く、数軒のパブを経営し、やはり5年前からひとりのパートナーと付きあっている。両親はナイジェルが同性愛者だということをそれほど気にしていない。ナイジェルとマークには兄がいて、彼はゲイではない。母親は大家族の生まれで、4人の姉妹と11人のいとこがいるが――わかっているかぎり――他に同性愛者の子どもはいない。

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ティム・スペクター(Tim Spector) 

ロンドン大学キングス・カレッジの遺伝疫学教授で、ガイズ・アンド・セントトーマス病院の名誉顧問医を務める。同病院の双子児研究所の所長も務めており、1992年に英国で世界最大規模の双子研究(UK・ツイン・レジストリ)を立ち上げ、現在にいたるまで指揮している。この研究の対象となった双子は、11,000人を超える。これまでに500本以上の論文を発表し、数々の賞を受賞。また、英国並びに日本も含む世界各国のメディアが著者らの研究を取り上げており、著者自身も出演、及び監修を務めている。 著書に“Your Genes Unzipped: A Guide to How Your Genetic Inheritance Can Shape Your Life”(邦題:『99%は遺伝子でわかる!』(大和書房))がある。

 

 

野中香方子(のなか・きょうこ) 

(Tim Spector)翻訳家。お茶の水女子大学文教育学部卒業。 主な訳書に『エピジェネティクス 操られる遺伝子』『ザ・フォロワーシップ』(ともにダイヤモンド社)、『137億年の物語』『移行化石の発見』(ともに文藝春秋)、『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社)、『わたしたちの体は寄生虫を欲している』(飛鳥新社)、『脳を鍛えるには運動しかない!』NHK出版)、『ヒトゲノムを解読した男』『生き物たちは3/4が好き』(ともに化学同人)などがある。

 

 


双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける

同じ遺伝子を有し、自然界のクローンとも言われる「双子」。
だが、これまでに出会った双子を思い返してみると、
不思議なことに気づかないだろうか?

「果たして双子は、『クローン』と呼べるほど『同じ』なんだろうか?」

体重差が27キロある双子、
一方だけが乳癌になった双子、
ゲイとストレートの双子……。
本連載に登場する、「同じ遺伝子を持ちながらまったく違う(Identically Different)双子」は、
遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。

このような、遺伝子によらない遺伝の仕組みが、
いまや生物学・遺伝学だけではなく、
長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。
本連載は、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、
遺伝学の最前線を紹介する。

「双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける」

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