体重差が27キロある双子、一方だけが乳癌になった双子、ゲイとストレートの双子……。「同じ遺伝子を持ちながら、まったく違う双子」は、遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。
この「何か」こそ、いまや生物学・遺伝学だけではなく、長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。言うなれば遺伝子上にある「スイッチ」で、これがさまざまな要因でオン・オフされることで、遺伝子の働きが変わるという。
『双子の遺伝子』が日本でも発売された遺伝疫学の権威が、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、エピジェネティクスについて紹介する連載第2回。今回登場するのは……。
ナイジェルとマークの場合
――ゲイとストレートに分かれた双子の兄弟
ナイジェルが、自分が他の男の子と違うことに気づいたのは、13歳くらいの時だった。
「女の子に対して、友人たちが抱いているような感情を持てなかったの。男性が出てくるエロティックな夢を見るようになって、そういえば、女の子の夢を見たことがないことに気づいたのよ」
ナイジェルの家族に同性愛者はいなかった。彼は自分の感情にいらだち、その後の3年間は怒ってばかりいた。16歳の時、あるパーティで出会った女の子と散歩して、キスをしたが、「何も感じなかったわ」。
17歳の時、これが学校で過ごした最後の年だったが、他の生徒たちから「離れられない友だち―サイモン」がいることをからかわれ、「サイモンのボーイフレンド」と呼ばれた。ふたりは笑い飛ばしたが、実際のところサイモンは複数の男子生徒と付きあっていた。ふたりは密かに互いのことを深く知り、マスターベーションやオーラルセックスをするようになったが、サイモンはナイジェルに内緒で女の子とも付きあっていた。ナイジェルはその時点で、自分は間違いなく同性愛者だと気づいた。
ナイジェルは学校を卒業すると、家を出て、コックになるための修行を始めた。同時にゲイのコミュニティに入ったが、後悔はしていない。その頃、家族にも自分が同性愛者だということを告白した。ナイジェルの双子の兄弟であるマークはその時のことを回想してこう言った。「正直言って、それほどショックじゃなかった。最終学年の頃にはうすうす気づいていたから――でも、それ以前は全然知らなかったよ」
マークは看護師をしていて、ナイジェルと同じくスポーツが嫌いだ――これは、ニュージーランドではかなり珍しい。ふたりとも、芸術や音楽のほうが好きなのだ。マークは言う。「ぼくは奥手で、初めてセックスしたのも、女の子と真剣に付きあうようになったのも、20歳を過ぎてからだった。男性の夢を見たことはないね。でも、女性だけじゃなく、同性愛者の男性も、友達として付きあうのは好きなんだ。ナイジェルに誘われてそんな店によく行くので、誘われることにも慣れているしね」
22歳の時、バーでとてもハンサムな男性がマークに熱心に話しかけてきた。何時間もおしゃべりをして、シャンパンを3本もおごってくれた。とうとうマークは彼の部屋に同行し、そこでキスをして、服を脱いだ。
「彼と裸でベッドに入り、ふいに気づいたんだよ。ちっともその気になれないってことに。ぼくは起きあがって、彼に謝って部屋を出たんだ。ナイジェルとぼくはほとんどの面でよく似ているけれど、パートナーの選択に関しては、まったく違うってことがよくわかったよ」
マークは5年前に結婚し、娘をひとりもうけ、幸せに暮らしている。ナイジェルはマークより体重が8キロ軽く、数軒のパブを経営し、やはり5年前からひとりのパートナーと付きあっている。両親はナイジェルが同性愛者だということをそれほど気にしていない。ナイジェルとマークには兄がいて、彼はゲイではない。母親は大家族の生まれで、4人の姉妹と11人のいとこがいるが――わかっているかぎり――他に同性愛者の子どもはいない。