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医療・介護 大転換

なぜ日本では認知症高齢者の入院が減らないのか
「脱精神科病院」を阻止する医療関係者の反撃

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第10回】 2014年9月24日
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 日本は「認知症800万人時代」が到来しているにもかかわらず、欧米諸国では否定されつつある認知症高齢者の入院者がまだ多い。それも本来、認知症高齢者の居場所としてはふさわしくない精神科病院に5万3000人もの患者が入院している。多くの病院関係者が一体となって、「認知症ケアに医療が必要」と思い込んでいる。

 認知症ケアには「病院モデル」から「生活モデル」への転換が必要というのが、国際的な流れだ。しかし、その流れに抗うかのような日本の医療関係者。厚労省内にも医療派と生活派が混在し、そこに医療関係者の強引な介入があり、政策も紆余曲折を辿ってきた。

やっと認知症ケアに本腰を入れた
厚労省「オレンジプラン」の中身

 実は、医療関係者の中にも、診療所医師を中心に生活ケアを重視する医療者たちもおり、その声が次第に大きくなりつつある。訪問診療など在宅医療に携わっていると、自宅や地域で日常生活を続けることが認知症ケアにとって最良の対応と実感してくるからだ。

 その声に押されるようにして、厚労省内でも生活モデル派が主導権を採りつつある。そんな現場の「生活モデル」派の声を集大成したのが2012年秋に厚労省が打ち出した「認知症施策推進5か年計画」である。認知症に本腰を入れて取り組む姿勢を初めて見せた。いわば、認知症ケアのスターラインにやっとたどり着いたといえよう。遅きに失したが、着手したことは評価されていい。別称「オレンジプラン」と命名し、2013年度から始まった。

 その内容を見ていこう。7つの施策を掲げる。


①認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)の作成
・2014年度までに市町村が呼び掛け、翌年以降に介護保険に反映させる

②早期診断・早期対応
・かかりつけ医の研修受講者を2017年度までに5万人に
・認知症サポート医の研修受講者を2017年度までに4000人に
・認知症初期集中支援チームを2014年度までにモデル事業として30ヵ所で設置
・早期診断を行う医療機関を2017年度までに約500ヵ所整備
・地域ケア会議を普及させ、2015年度以降に全市町村で実施

③医療サービスの構築
・薬物治療のガイドラインを2012年度に策定し、以降、医師向け研修で活用
・精神科病院に入院が必要な状態像の明確化
・退院支援・地域クリティカルパス(退院に向けての診療計画)の作成

④地域生活を支える介護サービスの構築

⑤日常生活・家族の支援強化
・認知症支援推進員を2017年度末に700人へ
・認知症サポーターを2017年度末までに600万人へ
・市民後見人を育成し、将来的にすべての市町村で整備
・認知症の人や家族支援として「認知症カフェ」の普及

⑥若年性認知症施策の強化
・2017年度までに当時者の意見交換会を全都道府県で開催

⑦人材の育成
・認知症介護実践リーダー研修の受講者を2017年度末までに4万人
・認知症介護指導者養成研修の受講者を2017年度末までに2200人
・一般病院の医療従事者への研修受講者を2017年度末までに8万7000人


 以上のように多岐にわたる豊富な中身だが、従来施策の踏襲も多い。その中で、①のケアパスや②の認知症初期集中支援チーム、早期診断を行う医療機関③の精神科病院に入院が必要な状態像の明確化などが目新しい。

 この新プロジェクト、オレンジプランに至る経緯を振り返ってみると、医療・病院側との攻防戦があり、すんなり決まったわけでないことがわかる。欧米各国とは違う日本の特殊事情が表れている。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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