モノを買ったり、この人と付き合おうと決断したりするとき、人はストーリーを必要とする。ストーリーとは、言い換えれば「言い訳」「大義名分」「後付けの屁理屈」ともいえるもの。優秀な営業マンや異性にモテる人は、相手に気持ちよく言い訳をさせてあげる達人なのだ。
相手に「自分で選んだ」「自らの意思でそうした」と思わせるにはどうすればよいのかを探る。

「快」の感情を与えれば自分もハッピーになれる

 前回、心を開いてもらうためには、相手を認めることが大切とお話ししました。あなたのことをより「特別な人」と意識してもらうには、相手を認めるだけでなく、「快」の感情を与えることも重要です。

 ある芸能事務所の人に、売れるタレントとそうでないタレントとの違いを聞いたことがあります。両者の差は、「楽屋トーク」にあるそうです。

 売れるタレントは、MCのタレントのところに挨拶に行ったら、他愛ない世間話をしながらも相手へのリサーチを欠かしません。ブログなども事前にチェックしておき、「あそこに行ったんですか? ボクもです」などと共通項を見つけて話を盛り上げます。そうすると、本番でも「あそこに行ったんだって?」とMCから話を振ってもらえ、継続的に番組に呼んでもらえるようになるのだそうです。

 確かにMCの立場で考えたら、当然、そのタレントに好印象を持つでしょう。それに、よく知らない相手だと、どんな話題を振ればいいのか見当がつきませんし、笑いや怒りのツボもわからないので扱いづらいのだと思います。

 こうした話をすると、「そんな太鼓持ちのようなことしたくない!」と抵抗を感じる人もいると思います。でも、ただ番組に呼んでもらえないと嘆いているだけでは、道は開けませんし、「とにかく番組に出たいんです」と自分の要求だけをゴリ押しすれば、たとえ要求が通っても幸せになるのは自分だけです。

 自分のことに関心を持ったり、褒めてくれたりする相手に対し、人は絶対に悪い印象を持ちません。嬉しい、楽しい、幸せという「快」の感情を与えることで相手に喜んでもらい、自分の願いも叶えることができる。「自分も幸せ」「相手も幸せ」――そのほうがいいと思いませんか。

楽しかったデートも、わずか1時間で半分は忘れてしまう

「快」の情報を与える際に、ひとつ気をつけたいことがあります。それは“与え続ける”ことです。

 感情の貯金は時間の経過とともに目減りしていきます。ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが発表した「エビングハウスの忘却曲線」によれば、人の記憶は、
・20分後には42%
・1時間後には56%
・1日後には74%
・1週間後には77%
・1ヵ月後には79%
 を忘却してしまうといいます。