「この人のことは信頼できる」「この人になら何でも話せる」。こうした信頼関係を築くには、相手より先にどんどん自分のことを話し、「自己開示」していくことが有効だ。
自己開示された相手は、「これだけ話してくれたんだから、こちらも何か話さなきゃ悪いな」と感じ、自分のプライベートを明かしてくれるようになる。さらに、今度は「自分はこんなに個人的なことを打ち明けているんだから、私はこの人を信頼しているんだ」という気持ちになっていくのだ。
相手から信頼を得ながら、聞きたい情報を引き出していく自己開示のテクニックを紹介する。

「特別な人」になるとはどういうことか

 想像してみてください。あなたは真冬の寒空の中、駅前で道行く人にビラ配りをしています。そこに、見知らぬ人から「どうぞ」とあたたかいココアが差し出されました。あなたはそれを受け取るでしょうか?

 大半の人が「受け取らない」と答えるでしょう。それは、ココアという「物」を信頼していないのではなく、見ず知らずの「人」を信頼できないからです。

 私たちは、自分が信頼している「特別な人」の言葉を信じ、「特別な人」から物を買い、「特別な人」からの好意を受け入れます。自分が好意をもって信頼している人にハグされることは「喜び」ですが、そうでない人からのハグは「セクハラ」になってしまうのが、その証拠です。

「この人のことは信頼できる」「この人になら何でも話せる」。こうした信頼関係のことを、心理学で「ラポール」と呼びます。ラポールとは、「橋を架ける」という意味のフランス語です。心が通じ合い、互いに信頼し、相手を受け入れている状態のことをいいます。

 仕事、恋愛、人間関係……コミュニケーションが必要なあらゆる場面において、まず取り組むべきことは、相手との間に「ラポール」を築くことなのです。

 こちらがいくら相手のためを思って有益な情報や好意を伝えようとしても、聞く耳をもってもらえなければ受け取ってもらえません。それらはあなたが相手の「特別な人」になってはじめて、効力を発揮するものなのです。

「初対面」がラポールを築くチャンス

 人は、ラポールを築いた相手には警戒心を解きます。そのため、暗示にかかりやすく、思いどおりに誘導することが容易になるのです。

 ラポールを築くには、私たちの脳にある「ラス(RAS)」が開かれてなければなりません。ラスとは、入ってきた情報を自分に必要のあるものか、そうでないものかを瞬時にふるいにかける脳の機能です。無意識下に行われるもので、不必要だと判断された情報は、顕在意識にのぼる前にシャットアウトされてしまいます。すべての情報について理性でジャッジしていたら、脳がパンクしてしまうからです。