経営 × オフィス

過疎が進む故郷で若者と高齢者を同時に活性化
美波町に真の地方創生策を示した若きIT実業家

相川俊英 [ジャーナリスト]
【第112回】 2014年10月7日
1
nextpage

若きIT実業家を育んだ美波町の海と山
過疎の故郷にサテライトオフィスを設置

徳島県美波町の中心部。自然と文化と歴史が凝縮されている

 「日本は地方出身者が支えてきたと思います。多様な人材の供給源である地方が衰退すれば、やがて都会も国全体も勢いを失ってしまうと思います。この国が元気であり続けるためにも、地方を元気にしなければなりません」

 こう語るのは、都内でIT企業を経営する吉田基晴さんだ。アカウミガメの産卵地として知られる徳島県美波町の出身で、現在、42歳。

 高校卒業後、大学進学のため生まれ育った美波町を離れた吉田さんは31歳で起業し、都内のIT企業の設立メンバーの1人となった。情報漏えい防止システムの開発などを手がける「サイファー・テック株式会社」である。吉田さんは設立2年後に社長に就任した。

 若くして経営者となった吉田さんには、いくつかの持論があった。経営する会社の業務は最先端のシステム開発で、そのために不可欠なのが社員1人ひとりの創造力であること。そして、そうした創造力は社員1人ひとりがどのように働き、どのように暮らすかを自ら主体的に考えることで育まれると捉えていた。

 仕事と私生活双方の充実が重要で、個々人の趣味を大事にするというのが持論となった。会社として「半X半IT」(Xは個人の趣味)を提唱し、自身も千葉県内でコメづくりなどに打ち込んでいた。自然に囲まれた職場こそが、創造力を最大限に発揮するのに最適な環境であると捉えていたのである。吉田さんは、「自然が豊かな美波で育ったことが自分の個性であり、強みになっていると実感している」と語る。

 徳島県南東部に位置する美波町は、海と山、そして川に囲まれた自然豊かな地域だ。町中に四国遍路23番札所の薬王寺があり、おもてなし文化がしっかり根付いている。

 しかし、御多分にもれず過疎化が急速に進行し、1970年に約1万3000人を数えた人口は、現在(2014年4月)約7500人に減少。高齢化率は41%を上回る。町内にあった2つの高校が数年前に相次いで廃校となり、地域から若者の姿が消えてしまったのである。

 こうした故郷の状況に吉田さんは心を痛め、何かできないかと考えるようになった。ちょうどそんなときだった。東京のIT企業が、徳島県内の小さな町にサテライトオフィスを構えたことが話題となった。徳島県は全国第1位のITインフラ網(普及率約9割)を誇っており、企業誘致に力を入れていた。

1
nextpage

「経営×オフィス」を知る ワークスタイルで変わるオフィスとは?

  • ワークスタイルの変革とオフィスの変化
  • 創造性を育む「クリエイティブ・オフィス」の作り方
  • 快適性×オフィス=社員が変わる
  • 快適性×オフィス=社員が変わる
  • 快適性×オフィス=社員が変わる
  • 働き方の多様化が進むほどオフィスの役割は重要になる 新しいワークスタイルとオフィスの進化

OFFICE TOPICS 働く場所・働き方・働く人

「経営×オフィス」を見る 理想のオフィスのつくり方

 

相川俊英 [ジャーナリスト]

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から『週刊ダイヤモンド』委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組『サンデープロジェクト』の特集担当レポーター。主な著書に『長野オリンピック騒動記』など。


相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

「相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記」

⇒バックナンバー一覧