現在の日中は
“共損”状態

相互不信の元凶、歴史認識問題の根源は何か <br />関係安定へ属人的パイプの制度化を急ぐべき<br />――王雪萍・東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科准教授おう・せつへい
1976年生まれ。2006年3月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士後期課程修了、博士(政策・メディア)。その後慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所助教、関西学院大学言語教育研究センター常勤講師、東京大学教養学部講師・准教授を経て現職。専攻は戦後日中関係史。

 2012年9月の尖閣諸島(中国名:釣魚島)国有化以降、日中関係は日中国交正常化後最悪の状態だと言われている。日中間での首脳会談はおろか、事務レベルの日常的な連絡や意思疎通もままならない状態が続くうちに、日中関係は、戦後最悪との危惧が高まったためである。

 さらに、日中関係が一段と悪化し、軍事衝突の発生をも懸念する論評さえ、世界中のマスコミで現れるようになった。内外のこうした風潮が日中両政府による交渉を一層困難なものにさせている。

 国有化以降、東シナ海の小さい島々をめぐる日中両国の対立は、世界規模での外交合戦へと発展していった。しかし、その結果は、日中いずれかの勝利ではなく、共に損をする“共損”へと収斂しつつある。

 BBCが2005年以降、毎年春に実施している国別世論調査の結果(20ヵ国以上の国の国民に対して、日本、中国を含む17の国と地域についての印象を対面式で訪ねて行った調査結果である)によれば、「各国が国際社会に対して『概ね良い影響を与えているか』」という質問の国別好感度ランキングでは、日本は2012年の首位から、2013年は4位、さらに2014年は5位に転落した。他方、中国も2012年は5位であったが、2013年と2014年は2年連続で9位であった。

 日本の順位が下がった理由として日韓関係の悪化も一因であろう。中国の方は、日本との関係以外にも、南シナ海における強硬姿勢が順位を押し下げたとみられる。とはいえ、2012年以降の日中関係悪化が海外における両国の印象を悪化させているのは紛れもない事実である。