長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉
【第7回】 2014年10月9日 樋口直哉 [小説家・料理人]

カントの規則正しい独身生活─散歩、会食、チーズ

※享年(数え年で表記)
イラスト/びごーじょうじ

 やっぱり長生きはするものだな、とイマヌエル・カントの人生を知ると思う。彼が『純粋理性批判』を書いたのが、57歳の時だったからだ。

 『純粋理性批判』はそれまでの西洋哲学を変えた名著として知られ、また難解なことでも有名だ。僕などは読んでみたが意味が全くわからず、仕方がないので解説書を読んだら、さらにわからなくなったという始末だ。

 難解な著作はさておき、その人生は面白い。カントはドイツ、プロイセンのケーニヒスベルク(現ロシア・カリーニングラード)の馬具職人の四男として生まれた。のちに裕福になるのだが、若い頃は家庭教師で生計を立てるなど苦労したようだ。実際、すぐに大学にポストを見つけられずに、ケーニヒスベルク大学の教授になったのは46歳のとき。その1年後に『純粋理性批判』につながる着想を思い付く。しかし、形としてまとまったのは先に述べたように57歳の時だ。構想を思い付いてから完成まで10年もの歳月を費やしたのである。つまり、長生きをしなければ名著は世に問われることがなかったのだ。

 生涯を独身で通した哲学者の生活は規則正しいものだった。早朝に起き、午前中は仕事。帰宅し、決められた時間になると散歩に出かけた。あまりにも時間に正確なので、人々はカントの姿を見て時計の針を直したといわれている。

 1日に1度しか食事をしない彼は、夕方から人々を集めた会食という形をとった。

 カントはこう言っている。

「1人で食事をすることは、哲学する学者にとっては不健康である」

 食事中、哲学や学問の話は厳禁。世間話に終始した。食事はカントにとって頭を休める大切な時間だったのだ。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉

1日でも長く生きたい――。きっと多くの人が望むことだろう。では、実際に長生きをした人たちは何を食べてきたのか。それを知ることは、私たちが長く健康に生きるためのヒントになるはずだ。この連載では、歴史に名を残す長寿の人々の食事を紹介。「長寿の食卓」から、長寿の秘訣を探る。

「長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉」

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