売春島や歌舞伎町のように「見て見ぬふり」をされる現実に踏み込む、社会学者の開沼博。そして、『「AV女優」の社会学』の著者として話題を呼ぶ社会学者の鈴木涼美。『漂白される社会』の出版を記念して、ニュースからはこぼれ落ちる、「漂白」される社会の現状をひも解くシリーズ対談。
「女子高生」という“値札”を失ってから、その寂しさをいかに埋めればよいのか。Facebookの「いいね!」集めやパワースポット通い、ホストに入れこむのと同様に、AV女優という仕事がその一つになっていると鈴木は語る。
めくるめくものを失うことへの恐怖
開沼 鈴木さんの周辺にいた、かつての女子高生たち、AV女優たちや、あるいはご自身が感じている満たされない気持ちは、どこに向かうのでしょうか。たとえば、流行の「マイルド・ヤンキー」は、結婚して子どもをたくさんつくり、車を買ってショッピング・モールに行くことでそれを満たしているわけですよね。
1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)がある。
鈴木 マイルド・ヤンキーの生き方を否定するわけではないですが、それだけでは失う物があるような気がするのも確かです。まだ分析のレベルまでは持っていけそうにない話ですが、あのとき感じていた高揚にも似た気持ちが、結婚した途端に終わってしまうような気がするんですよ。
開沼 それは恐怖ですか。
鈴木 そうですね、怖いです。めくるめくものが目の前にない感覚が、とても怖い感じがします。
開沼 なんとなくわかる部分もあります。おっしゃるような「高揚の気持ち」とは、周囲から憧れの眼差しや、相手が持たない価値を手に入れたいという欲望を向けられ続けることであるでしょう。たとえば、小保方さんはなんとなく楽しそうに見える側面もありますよね。
鈴木 彼女が楽しそうに見えるの、私もわかります。彼女は同世代ですね。
開沼 彼女には、あの世界でおじさんたちを転がして、コミュニケーション力一本でのし上がっていく力があった。再現不可能ではありますが、鈴木さんが感じる恐怖に対する一つの処方箋であったようにも思います。周りを見ていて、こんな処方箋もあるんじゃないかというアイデアはありますか。
鈴木 女子高生の時とまったく一緒ではないけども、自分の価値が比較的わかりやすく、パフォーマティブに出せる職業を選んでいる人はいます。たとえば、ブロガーです。それから現役の水商売の子もいるし、AV女優になっている子もいます。ただもちろん多くは記名性のない、会社員やアルバイト、主婦になっています。私も大学院を出た後、新卒で会社員になりました。なんとなく満たされていないという感じを、彼女たちの言動のはしばしに見たりはしますし、私自身も感じています。